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【農業は先進国型産業になった!】
日本ワイン比較優位産業論 現地ルポ 第6回 山形ブドウ100%の日本ワイン「ワイン特区」で地域振興をめざす(山形県上山市)
- 評論家 叶芳和
- 第26回 2019年06月28日
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1 山形県はブドウの流出県――山形ワインの成長余力は大きい
山形県上山(かみのやま)市は全国有数のブドウ産地である。果樹地帯であり、サクランボ、ブドウ、ラ・フランス等が盛んであるが、ワイン用ブドウの栽培も盛んである。
上山市は蔵王山麓(南西面)に位置し、4~10月の雨量は670mmと少なく(山梨県勝沼は850mm)、また盆地特有で夏は暑く、昼夜の寒暖差が大きい。涼しいのでいいブドウができる。地形は傾斜地で水はけのよい土地があり、ブドウ栽培の適地が多い。ただ、田んぼの中にブドウ畑が点在している地区もあり、見慣れた山梨勝沼とは風景が違う。
山形県のブドウ栽培は、江戸中期に甲州種の栽培が始まっており、明治時代、1870年代には初代県令・三島通庸により奨励された。ワイン造りも古く、1892年(明25)には赤湯(現南陽市)に東北地方初のワイナリーができた(酒井ワイナリー)。上山市のタケダワイナリー(ワイン造り創業1920年)も東北で2番目に古い。
ブドウ収穫量は、山梨県、長野県に次ぐ第3位である。「日本ワイン」生産の潜在力の高さを意味する。現状は、日本ワイン生産量1246キロリットル、全国4位(シェア6.8%)であるが、山形県は原料用ブドウの“流出県”である。原料用ブドウ生産2500tに対し、県外への移出が912tあり、県外流出率は36%である。他のワイン産地に比べて著しく高い。ブドウ余剰であり、ブドウ生産に
対し日本ワイン生産が少ないと言える。山形県の大きな特徴である(表1参照)。ブドウ余剰はワイン産業の成長余力が大きいことを意味する。
ちなみに、日本ワイン生産量に対するブドウ出荷量(生食用を含む)は11倍もあり(注:山梨は2倍、長野6倍、北海道2倍)、潜在的には(条件さえ整えば)、生食用からワイン醸造用への転換余地は大きい。山形県は日本ワイン生産の適地と言える。
品種別には、白ワイン用はデラウエア、ナイアガラ、シャルドネが多く、甲州はゼロに近い。赤ワイン用はマスカット・ベーリーAが多い。デラウエアは日本一の産地である。
ワイン特区の今
上山市は2016年に「ワイン特区」に認定され、現在、ワイナリーが3社あるが、新規参入が見込まれている。上山市はワイン産業を新しい地域振興の目玉にしている。
上山市は人口減少に悩んでいる。近年は年率1.4%程度の減少が続き、総人口は1990年に3万8000人を超えていたが、現在は3万人を切っている(表3参照)。蔵王エコーラインの開通(1962年)等を背景に団体客で賑わう温泉地として栄えたが、温泉客の減少、2003年の市営競馬場廃止が人口流出に拍車をかけた。観光客数はピーク時の156万人(1992年)から、現在65万人に減った。水田農業も衰退方向である。そこで数少ない成長産業であるワイン産業に目を付けた。ワインの郷にして人を呼び込もうという戦略である。勝沼に学び、ワインツーリズム狙いだ。
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叶芳和 カノウヨシカズ
評論家
1943年、鹿児島県奄美大島生まれ。一橋大学大学院経済学研究科 博士課程修了。元・財団法人国民経済研究協会理事長。拓殖大学 国際開発学部教授、帝京平成大学現代ライフ学部教授を経て2012年から現職。主な著書は『農業・先進国型産業論』(日本経済新聞社1982年)、『赤い資本主義・中国』(東洋経済新報社1993年)、『走るアジア送れる日本』(日本評論社2003年)など。
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