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山道弘敬の本質から目を逸らすな

スマートアグリシティーのすすめ(その2)

日本の馬鈴薯栽培で最も生産量が多いのは澱粉原料用である。2018年12月10日に北海道帯広市で開催されたポテトフォーラムの資料によれば、平成28(2016)年度の国内の馬鈴薯生産量約220万tのうち、約70万t(32%)が澱粉加工用である。
この馬鈴薯は、いわゆる「馬鈴薯澱粉」に加工されるわけだが、この澱粉加工業は農産物加工の歴史上最も古い産業の一つである。主産地北海道には合理化澱粉工場と称し、広域的に原料を集荷して大規模に澱粉加工を行なっている集約工場があちらこちらにある。残念なことにこの合理化澱粉工場の稼働率は年間3カ月程度と短く、地域への職場提供という観点からは貢献度があまり高いとは言いがたい。3カ月しか稼働しない工場の労働者は必然的に季節労働者が主体であり、このような短期間では誰も喜んで働きたくないのは当然のことである。
一方、オランダにはAvebe社という世界一の馬鈴薯澱粉加工会社があり、この会社は生産者の協同組合が支えている企業でもあるが、原料を貯蔵して工場の稼働期間を馬鈴薯収穫年の4月ごろにまで延長している。
筆者はかねがね、この澱粉加工業を地域の過疎に歯止めをかけ、地方に定住する職場として意義あるものにするため、以下のようなプランを提案してきた。つまり、地域の馬鈴薯澱粉原料生産に見合った小さな加工場を設立し、Avebe社よろしく澱粉用馬鈴薯を貯蔵することで、この小さな加工場を年間稼働させて労働者の定着を促すというものである。そうすれば、ここで働く労働者は地域に住み着き、税金を落としてくれ、結婚もして家庭を持つであろうし、奥さんは子供の手が離れたころには地域の馬鈴薯選別場などで働いてもらえるかもしれない。過疎の根本対策は、労働者が定着しうる職場づくりがその本質であり、澱粉加工場をその対策に利用しない理由はない。
筆者は元々馬鈴薯などの農産物の加工会社出身であり、加工場でどれほど稼働率が重要であるか、身に染みて感じてきた。仮に1年分の生産量を3カ月で生産しようとすれば、1年分の生産量を12カ月で生産する場合の4倍の能力の工場を設備しなければならない。スケールメリットというものも考えられるので必ずしも設備費は生産能力に比例するわけではないが、考察を簡略化するためにそれを仮定したとすれば、結果的に生産量は同じため、年間稼働の工場で生産された馬鈴薯澱粉の価格に織り込む減価償却費は4分の1で済むことになる。つまり、年間稼働の工場では安価に澱粉を生産できることになる。もしも、3カ月しか稼働しない工場と同レベルの減価償却費を馬鈴薯澱粉の価格に織り込むことができるのならば、工場の減価償却は4倍早く進むことになり、新しい設備への更新もスムーズに進むことになる。つまり、生産工場の常識では稼働率の低い工場は作ってはいけないのである。

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