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【農業は先進国型産業になった!】
日本ワイン比較優位産業論 現地ルポ 第7回 日本の食文化を表現世界と勝負するワインをめざす ドメーヌ タカヒコ(北海道余市町)
- 評論家 叶芳和
- 第27回 2019年07月31日
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1 北のフルーツ王国
積丹半島の付け根に位置する余市町(人口1万9000人)は「果実のふるさと」と呼ばれている。日本海を北上する暖流の対馬海流の影響を受けて、余市は比較的温暖で果樹栽培が盛ん、リンゴやブドウ、洋梨の生産量は全道一を誇っている。積雪量が多い地域であるが、「フルーツ王国」である。果実の生産額は19億円で、隣の仁木町と合わせると北海道全体の半分を占める(表1参照)。
しかし、近年はワインの町へと変わってきた。ワイン用ブドウ栽培が盛んだ。表2に示すように、ワイン用ブドウの栽培面積は10年前の105haから、2018年には145haへ拡大した。ブドウ栽培に適しているため、域外各地のワイナリーが余市町のブドウ栽培者と栽培契約している事例が沢山ある。
余市町のブドウ栽培は1876年(明治8)に始まるが、盛んになったのは1970年代、リンゴ価格が暴落したのがきっかけであった。リンゴの栽培面積が減少し(70年代1000ha、80年600ha、2000年300ha、現在200ha)、ブドウの栽培面積が徐々に拡大したが、1981年頃からワイン醸造用ブドウの栽培が始まった。余市町の果樹のリンゴからブドウへの遷移は明瞭だ。
農家の経営耕地面積が比較的大きいため(ブドウ栽培が一番盛んな登地区は6~10?ha)、栽培の手間が省ける加工用ブドウ栽培に積極的で、各地のワイナリーと契約栽培を行っている。1983年にはサッポロビール及びはこだてわいん(道内七飯町)が余市町の生産者とワイン用ブドウの試験栽培を開始する。
1984年にはサッポロワイン、余市ワイン(町内)が栽培契約を締結、1985年には北海道ワイン(小樽市)、はこだてわいん、ニッカウヰスキー(町内)、1996年には中央葡萄酒千歳ワイナリー(道内千歳市)、2002年には池田町ブドウ・ブドウ酒研究所(道内池田町)と続き、域内外のワイナリーが余市町の生産者と栽培契約を締結した。このように、余市町はワイン用ブドウの余剰、移出地域として有名な産地だ。
なぜ寒い地方でワインか
北海道は寒い、雪が多い、そんな地方でなぜブドウ栽培、ワイン造りが盛んなのか。素人の初歩的な疑問である。しかし、実はブドウ適地なのだ。
ブドウ栽培に適した気象条件があるが、余市町の積算温度(4月から10月)は1200℃(最近は1300℃)で、ブルゴーニュ(1300℃)、シャンパーニュ、アルザス(1200℃)と同じである。ドイツの産地も1200℃だ。余市町は世界のワイン銘醸地と同じ条件なのである。
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叶芳和 カノウヨシカズ
評論家
1943年、鹿児島県奄美大島生まれ。一橋大学大学院経済学研究科 博士課程修了。元・財団法人国民経済研究協会理事長。拓殖大学 国際開発学部教授、帝京平成大学現代ライフ学部教授を経て2012年から現職。主な著書は『農業・先進国型産業論』(日本経済新聞社1982年)、『赤い資本主義・中国』(東洋経済新報社1993年)、『走るアジア送れる日本』(日本評論社2003年)など。
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