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【農業は先進国型産業になった!】
日本ワイン比較優位産業論 現地ルポ 第8回 完全「国産」主義 規模の利益で安価なワイン提供 北海道ワイン㈱(北海道小樽市)
- 評論家 叶芳和
- 第28回 2019年08月30日
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1 日本ワインのガリヴァー
国産ブドウ100%の「日本ワイン」の国内最大ワイナリーは北海道小樽市にある。北海道ワイン(株)(嶌村公宏社長)の規模は、ワイン生産量250万本(720ミリリットル)、自社畑447ha(作付規模100ha)である。所有する自社畑も大規模だ。日本ワインだけで比較すると、ワイン業界最大手のシャトー・メルシャンは約65万本、自社畑50ha、サントリーワインは約70万本、自社畑35ha(生産法人分含む)である。北海道ワインの大きさが分かろう。メルシャンやサントリーの4倍も大きい。
北海道にはワイナリーが38社あるが、生産量は同社が全道の半分以上を占める(表1参照)。ほとんどのワイナリーが年産5万本未満の小規模である。北海道ワインはまさしく日本ワインの「ガリヴァー」である。
なお、全国で見ても、全国にはワイナリーが303場(285社)あるが、その日本ワイン生産の約1割を北海道ワインが1社で占めている。
北海道ワインの本社は小樽市であるが、447haの農場は岩見沢の近く、樺戸郡浦臼町鶴沼にある(札幌から北北東に62km)。南西向きの斜面に広がる、垣根式のブドウ畑である(注:「鶴沼ワイナリー」と称しているが、ブドウを収穫しているだけで、ワイン醸造は小樽で行なっている)。
ブドウ調達面から見ると、鶴沼の自社畑100ha(更新中のため生産量200t)のほか、余市町ほか全道24市町村250軒の契約農家からブドウ1800tを購入している(余市町200軒、他は名寄、北見、深川、岩見沢、三笠など)。また、本州からも200tくらい購入している。鶴沼の自社畑では農家が作れない高級品種だけを生産し、同社のフラッグシップワインになっている。鶴沼収穫のワインは2000円台が主力であるが、3000円、5000円台もある。購入ブドウで造る「おたるブランド」ワインは1100円台である。
北海道はワイナリー増加中
表2に示すように、北海道はワイナリーが急増している。2012年にはワイナリーは7場しかなかったが、17年には35に増えた。5年間で5倍。後志(しりべし)地域の余市町は09年までの1場から18年の11場に増えた(本誌前号拙稿参照)。いずれも小規模ワイナリーである。全国的にも、ワイナリーは増加傾向にあり、この5年間で2倍に増えているが、最も著しく増加しているのは北海道である。
寒い北海道で、なぜワイナリーが増えるのか。これが素人の疑問であろう。しかし、北海道は良質なワイン醸造用ブドウが採れるところである。
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叶芳和 カノウヨシカズ
評論家
1943年、鹿児島県奄美大島生まれ。一橋大学大学院経済学研究科 博士課程修了。元・財団法人国民経済研究協会理事長。拓殖大学 国際開発学部教授、帝京平成大学現代ライフ学部教授を経て2012年から現職。主な著書は『農業・先進国型産業論』(日本経済新聞社1982年)、『赤い資本主義・中国』(東洋経済新報社1993年)、『走るアジア送れる日本』(日本評論社2003年)など。
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