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【農業は先進国型産業になった!】
日本ワイン比較優位産業論 現地ルポ 第8回 完全「国産」主義 規模の利益で安価なワイン提供 北海道ワイン㈱(北海道小樽市)
- 評論家 叶芳和
- 第28回 2019年08月30日
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嶌村社長「世界地図を見ると、北海道はヨーロッパのワイン地帯と同じ緯度にある。冬季、雪の多いところは北海道だけだが、植物が生育する夏はヨーロッパと同じだ。梅雨がないのは利点だ。本州は湿気が多く大変だ。ブドウは昼間、光合成で糖分をつくり、夜間、冷えたとき糖分をためる。また、冷涼なため、北海道は酸が豊富だ。いいブドウが採れる。長野と北海道が一番ワイナリーが増えているが、白ワインは酸が重要だからだ」。
近年、北海道で良いブドウができることが分かってきて、18年、本場の仏ブルゴーニュの老舗ワイナリーが函館に進出してきた(ドメーヌ・ド・モンティーユ社)。チリやニュージーランドなど各地を回って、函館を、高品質のピノノワール生産の可能性が高い地域と評価しての進出だ。日本への外資ワイナリー進出は初めてのケースだ。
嶌村社長「冬の寒さは、雪がブドウの木を守ってくれる。冬季、マイナス15度以下になると越冬できないが、ブドウの樹を雪に埋めると、雪が保温の役目を果たしてくれる。その場合、雪の重さで枝や幹が折れてしまうため、ブドウの樹を斜めに倒してやると枝折れは避けられる」。
雪を味方にするイノーベーションが、北海道をワイン適地にしたと言えよう(注:詳しくは本誌前号拙稿参照)。
国内最大という大規模ワイナリーは、如何なる仕組みの上に成立しているのか。どんな形か。思想と条件を探った。100%国産ブドウである以上、まず原料調達の仕組みから見てみよう。
2 ブドウ生産者との共存共栄
筆者が北海道ワインを取材しようと思ったのは、同社の創業者・嶌村彰禧氏の著書『完全「国産」主義』(東洋経済新報社、08年)を知ってからである。メッセージ力の強い書名である。「日本産ブドウ100%で作る本物の日本ワインを提供する」。創業以来の同社の社是である。
同社のワイン生産250万本、うち半分強の130万本は「おたるシリーズ」である。「おたるシリーズ」は全道24市町村250軒の契約農家および本州の農家等からの購入ブドウで生産している。447haの自社畑を所有する国内最大の「日本ワイン」メーカーといえども、実態は購入ブドウに依存するところが大きい。同社は、ブドウ生産者との共存共栄を社員手帳に掲げているのもうなずける。ただ、同社の歴史を見ると、ブドウ生産者に寄り添うことに伴い、幾度か経営危機に見舞われている。
創業者の思想と地域貢献
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叶芳和 カノウヨシカズ
評論家
1943年、鹿児島県奄美大島生まれ。一橋大学大学院経済学研究科 博士課程修了。元・財団法人国民経済研究協会理事長。拓殖大学 国際開発学部教授、帝京平成大学現代ライフ学部教授を経て2012年から現職。主な著書は『農業・先進国型産業論』(日本経済新聞社1982年)、『赤い資本主義・中国』(東洋経済新報社1993年)、『走るアジア送れる日本』(日本評論社2003年)など。
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