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【農業は先進国型産業になった!】
日本ワイン比較優位産業論 現地ルポ 第8回 完全「国産」主義 規模の利益で安価なワイン提供 北海道ワイン㈱(北海道小樽市)
- 評論家 叶芳和
- 第28回 2019年08月30日
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北海道ワインにも、取引先からは「とにかく赤ワインを!」と次々と注文が寄せられた。社内からも「もう輸入ワインを混ぜるしかない」という意見も出ていたが、彰禧氏は社員を本社に集め、「輸入ワインを混ぜると売り上げは増える。しかし、安易な混ぜ物で消費者を裏切ってはならない。ワイン造りは農業である」として、赤ワイン市場からの撤退を宣言した。
取引先の店舗では、要望に応えない同社の製品は他のワインメーカーのものに置き換えられ、取引停止も相次いだ。この年、出荷量は初めて前年を下回った。
赤ブームの間、一部の大手ワインメーカーは道内のブドウ農家を回り、現金でブドウの買い付けに走っていた。農家は栽培を大きく増やした。しかし、2000年、ブームが去り、大手が買い取りを控えた結果、大量のブドウが余り、農家は困った。この年、北海道ワインは契約農家はもとより、道内外の他社契約農家からも依頼され、前例のない3615tものブドウを買い取った(ワイン約400万本分)。北海道ワインは株式会社でありながら、「農協」的な役割を果たしたのである。農協の“加工部門的”な役割である。
これを売り切るのに、3年を要した。しかし、この困難を乗り越えたことで、社員も、農家も、創業者嶌村彰禧氏の信念と志を知った。農家とワイナリーの強い相互信頼関係が築かれ、北海道ワインの発展の基盤が強化され、今日の発展をもたらした。
3 名人のブドウは面積買い
ブドウ生産者からの購入契約は3種類に分かれる。一つは生産量、トンいくらで買っている。第2はちょっと優秀な人から「糖度買い」している。1農家で1000万円くらいになる。
第3は一番優秀な生産者から「面積買い」している(現在、3名)。これは面白い契約だ(注:この3人の名人は「葡萄(ブドウ)作りの匠」と称されている)。
一番糖度の高い生産者に合わせて“面積”買いする。つまり、一番糖度の高い生産者の価格で、(仮に単収が低くても)栽培面積に応じて収入を保証する。例えば、一番糖度の高い生産者が「10a、単収500kg、価格400円」であれば、10a当たり粗収入20万円になる。「面積買い」の場合、仮に単収が半分の300kgと低くても、10a当たり20万円で買い上げる。
このブドウで造ったワインは、「匠シリーズ」として、生産者の名前をラベルに入れて売っている。自分の名前が入るので、モチベーションが上がるようだ。糖度買いより良いブドウが出てくるようだ。現在、この面積買いの対象3人は、余市町の北島秀樹氏、田崎正伸氏、宍戸冨二氏である。
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叶芳和 カノウヨシカズ
評論家
1943年、鹿児島県奄美大島生まれ。一橋大学大学院経済学研究科 博士課程修了。元・財団法人国民経済研究協会理事長。拓殖大学 国際開発学部教授、帝京平成大学現代ライフ学部教授を経て2012年から現職。主な著書は『農業・先進国型産業論』(日本経済新聞社1982年)、『赤い資本主義・中国』(東洋経済新報社1993年)、『走るアジア送れる日本』(日本評論社2003年)など。
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