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【農業は先進国型産業になった!】
日本ワイン比較優位産業論 現地ルポ 第8回 完全「国産」主義 規模の利益で安価なワイン提供 北海道ワイン㈱(北海道小樽市)
- 評論家 叶芳和
- 第28回 2019年08月30日
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ワインの価格は、購入ブドウで造る「おたるシリーズ」は約1100円であるが、匠シリーズは2000円(4000円、5000円もある)。ちなみに、「鶴沼収穫」も2000円であるが、4000円も5000円もある。
4 精密、科学的管理の大型設備
工場(ギャラリー隣接)を見て、圧倒された。一歩足を踏み入れた瞬間、見上げるような巨大なタンクが目の前に現れた。貯蔵タンクは2万リットルの大きさという(ワイン720ミリリットル2万8000本)。これが300基並んでいる(小規模も一部ある)。国内最大規模メーカーの物的証拠と思い写真を撮ろうとしたが、筆者の技術ではカメラに収まらなかった(写真参照)。
貯蔵タンクは表面に水が流れている。タンクを冷やすため地下水(雪解け水)を流しているのだ。地下水は8~10度一定なので、低温発酵を可能にし、香りが残ってフルーティなワインになるようだ。地下水のお陰だ。また、工場は山の中腹にあり、高低差を利用して地下水をタンク表面に流しているので、温度管理のコスト(電気代)はゼロという。
「火入れ」(加熱処理殺菌)は行なっていない。1980年の第1号ワイン以来同じだ。精密濾過で除菌している。現在はフィルターで酵母を濾過する方法で、4回フィルターを通している(ドイツ製エノフロー濾過機、0.2ミクロン)。完全な無菌状態にできる。火入れをしないので、ブドウの持つ本来の香りがそのまま残っている。
搾りかすは、従来は堆肥にして畑に戻していた(年間500t発生)。しかし、搾りかすには多くのポリフェノールが残っているので、それを利用して化粧品や健康食品を開発中だ。現在、大学等と共同研究中で、2~3年後には商品化できるという。残渣物の利用は、付加価値を付けることで、農家に還元したいという気持ちもあるようだ。
工場を見て、もう一つ驚いたのは瓶詰め工程だ。瓶詰め機が高速で動いている。量販店向けの白ワインを瓶詰めしていたが、1時間4000本である。1日、2万8000本。小規模ワイナリーでは見られない光景である。当工場は規模の利益が大きそうだ。これなら低コストで供給できる。
工場の従業員は78人と多い。半分は製造関係、半分はギャラリーや事務部門だ。このほか、鶴沼ワイナリーに10人のほか季節労働者がいる。
ワイナリーは家族経営型が多いが、北海道ワインは100人体制である。雇用創出による地域貢献も大きい。
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叶芳和 カノウヨシカズ
評論家
1943年、鹿児島県奄美大島生まれ。一橋大学大学院経済学研究科 博士課程修了。元・財団法人国民経済研究協会理事長。拓殖大学 国際開発学部教授、帝京平成大学現代ライフ学部教授を経て2012年から現職。主な著書は『農業・先進国型産業論』(日本経済新聞社1982年)、『赤い資本主義・中国』(東洋経済新報社1993年)、『走るアジア送れる日本』(日本評論社2003年)など。
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