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放牧を始めたのは、経営上の理由もある。佐久浅間農協特産センターハム工場を引き継ぐとき六次産業化の交付金を受けたため、自社にも一次産業が必要だったからでもある。
「豚舎を設けると建築や維持にコストがかかるが、放牧ならそのコストがかからない」
美味しい生ハム、地域問題の解決、低コストの経営と、三拍子揃ったのが放牧だった。
八ヶ岳麓の冬はマイナス20℃になるが、豚は体をくっつけ合って暖をとり屋外でも越冬できるそうだ。
いま、豚コレラの問題が発生している。行政の指示通り電気柵とネットを張り、石灰を撒いている。本来、放牧には不要な設備で豚が囲われてしまっている。
「早くワクチン接種を始めてほしい。ワクチンは、人がインフルエンザの予防接種をするのと同じだ」
渡邉の言葉は明快だ。誤解や風評の心配について質問することすら恥ずかしさを覚える。渡邉を知る客なら誰もこの状況に惑わされないだろう。取材時の言葉が実現したのは、長野県内で相次いで豚コレラが発生し切迫した状況になってからのことだった。
最終商品から逆算した餌やり
「品種は三元豚。肉の味は品種よりも餌で決まると思っている」
豚は放牧場で草木の根も食べるほどだから、与えれば何でも食べる。しかし、味、匂い、色、肉の締まりなど、最終的な商品をつくるために餌の設計が重要だ。たとえば臭みの強い餌は肉も臭くなり、水分が多い餌は肉の締まりが悪くなってしまう。太らせるには穀類の配合飼料を与えており、初期は大豆、中間期はトウモロコシが中心で、仕上げの4カ月は麦を増やしている。
「アメリカはトウモロコシ、カナダは麦。食べ比べると、麦を食べている豚の脂のほうがしっかりついて臭いもなく美味しい」
仕上げの時期には意外なものを餌に加える。きたやつハムの周辺地域では、ワインや凍り豆腐(凍み豆腐または高野豆腐)の産業が盛んだ。そこでワインの絞りかすや、割れて売り物にできない凍り豆腐を混ぜて発酵させ、穀類と混ぜて与えている。
「豚の食欲も増し、穀物と半々ぐらいの割合で与えると適度に脂の融点が下がる。すると、食べたときアミノ酸より先に脂の甘みを感じられる。最終的な商品を考えて、どんな餌をどこまで与えるか逆算して与えている」
生ハムをつくる目標に向かい国内外で学び続ける
放牧や餌など養豚技術から肉の見極め、加工技術、調理まで、渡邉の知識は豊富だ。すべては、ある一点に向かっている。
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渡邉敏 ワタナベサトシ
きたやつハム(株)
代表取締役
1968年、長野県佐久穂町(旧八千穂町)生まれ。母の養豚業を見て育ち農業高校で畜産を学ぶ。卒業後、地元の八千穂村農協(現JA佐久浅間)に勤め、翌年全国食肉学校に通う。その後、東京や北海道のレストランで料理を学びながら、ドイツ、フランス、イタリアなど各国に赴き畜産や加工を学ぶ。2012年、(株)きたやつハムを設立。放牧養豚を始める。年商約1億5,000万円。
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