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特集

紀平真理子のオランダ通信 2019年夏

オランダ在住時に「紀平真理子のオランダ通信」として2013年から約3年間連載した紀平氏が今夏、帰国後では初めてオランダを訪れた。限られた滞在時間のため、今回は元々の知り合いや友人の農業関係者を訪問したというが、再会を喜ぶ一方で、日本で形成されたオランダ農業のイメージから少し突っ込み、本当の意味でのオランダ農業を探ってきたそうだ。オランダを離れ、日本での農業も理解し始めているいま、彼女の目に映ったオランダ農業の現状を届けたい。

Part1 オランダが抱える二極化する食の傾向

【ベジタリアン、ヴィーガンのファッション化】

農業の話題に入る前に、まず驚いたことは同世代の友人たちがそろってベジタリアンやヴィーガン(完全菜食主義者)になっていたことだ。イノベーター理論でいえば、筆者が帰国する2016年の時点ではイノベーター(革新者)が環境保護や動物愛護を提唱し、ベジタリアンやヴィーガンになる人もいたが、まだ少数派にとどまっていた。しかし、今回の訪問でアーリーアダプター(初期採用者)、あるいはアーリーマジョリティー(初期追随層)に当たる人からも、「環境保護のためにベジタリアン/ヴィーガンになった。少なくとも肉を食べる量を減らした」「ファストファッションには手を出さず、ビンテージ古着やフェアトレードのブランドを購入している」「食糧廃棄を意識して買いだめをしない」「塩分や糖分の摂取量を気にする」と同じような話を繰り返し聞いた。また、ベジジャンク(ベジタリアンのジャンクフード)が流行っており、環境保護や菜食主義が完全にファッション化している印象だった。彼らにどこから情報を得ているのか尋ねると、SNSやドキュメンタリー映画だという。ヨーロッパでは第二次世界大戦の反省から、マスメディアの情報を鵜呑みにしないというのが通説だったが、SNSの出現でメディアと消費者との関係が変化していると認めざるを得ない。
一方で、移民や都市部以外の中高年層などは、以前と変わらず肉を毎日のように食べ、食べ物は安くて量が多いものをマーケットで選ぶことを好んでいた。彼らはもちろん品質も重要だというが、第一に量と値段でその後に品質や味が続く。2016年にはどちらともいえないグレーの層が大多数を占めていたが、現在は二極化が進んでいる印象を受けた。
オランダ初のニュースサイト「Nu」が今年にベジタリアンに関する調査を実施した。これは、あくまでもニュースサイトの調査で、回答者数も少ないため、一つの指標として見てほしい。回答者2万人のうち、10%がベジタリアンで、7%がヴィーガンだった。また、ベジタリアンの25%が2017~2018年の間に転向し、ベジタリアン、ヴィーガンではない約40%も2018年から肉の摂取量を減らしていると回答した。
ところが、面白いことに、筆者がオランダに移住した2011年時点で、環境保護のためにベジタリアンになった「イノベーター」に当たる人はいま、「昨今の環境保護活動に向けた動きは行き過ぎではないだろうか」と考え始めている。たとえば、近年環境にかかわる多くの規制が段階を踏まずに一気に変更されたことを懸念しているのがそうだ。規制の強化と社会からのプレッシャーにより、オランダ国内では鶏の平飼いが一般的になったが、その実はオランダの生産者がアフリカや東欧へ移住してケージ飼いで鶏肉を養鶏し、オランダに輸入していたりする。この例のとおり、オランダで農業がしにくくなるのであれば、当該農家の他国への移住を促進してしまうのではないか。また、利益が出たり育てやすかったりする作物に栽培がますます集中することで、結果として国内で栽培されない作物がさらに増え、国外から輸送手段を使って輸入する必要がある作物が増えるのではないか。このように考えたベジタリアンは、環境保護と逆行するのではないかと頭を抱えていた。なかにはベジタリアンをやめた人もいた。

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