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【農業は先進国型産業になった!】
日本ワイン比較優位産業論 現地ルポ 第10回 ワイン技術移転センターの役割 ブルース氏の空知地域振興 合同会社10Rワイナリー(北海道岩見沢市)
- 評論家 叶芳和
- 第30回 2019年11月01日
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従来、極寒の地・北海道ではできなかった農業が、技術進歩もあって、北海道でもできるようになってきた。あるいは、冷涼な北海道でこそ、良質な産品ができる(例えば、欧州系ブドウ品種ピノ・ノワールは北海道が最適地になってきた)。そこで、この新しい条件の下で、各市町村が「新・一村一品運動」を展開し、市町村間で競争する。この競争の過程で、アイディアが出てくる。そこから、農業が活性化する。
ブドウ栽培、ワイン醸造、ワインツーリズムは、一番具体的な事例となるであろう。行政当局も、ワインツーリズムには興味を示しているが、その下部構造、ブドウ栽培には市町村間に温度差があるようだ。ブドウ栽培に積極性なくして、ワインツーリズムがあるわけがない。農地行政、新規就農者受け入れの次元から積極的に取り組んで初めて勝者となろう。
「新・一村一品運動」と「炭鉄港」、いずれが地域創生に効果があるか、競争すればよい。担当者の知恵比べである。もちろん競争と協働である。
年間6000人訪問する山崎ワイナリー
山崎ワインは北海道で一番有名なワイナリーと評判である。なだらかな丘陵地が続く三笠市達布地区にある(有)山崎ワイナリー(山崎和幸オーナー)は、35haの自作地で、小麦、コメ、スイートコーンを経営する農家であったが(3代目)、2002年にワイン造りに参入した。当時、農家がワイナリー参入と珍しがられたようだ。
1998年からブドウ栽培、3年後に免許申請、2002年にワイン免許、醸造を始めた。ブドウ参入は息子のためという。長男が02年、東京農大醸造学科入学、それを見越して98年にブドウを植えた。次男は教育者志望で北海道教育大学岩見沢校に入ったが、今はワイン造りに参加し、栽培と販売を担当し、ワイナリーを仕切っているようだ。
山崎氏のブドウとの出会いは、北海道ワイン(株)の三笠ワイナリーに自分の畑を貸していたので、ブドウ栽培を遠目で見ていた。そうこうしている時、余市のOcciGabiワイナリーの落希一郎氏に出会った。落氏は97年頃、ここの畑は水はけが良い、雪も降ってブドウを守ってくれる、交通の条件も良い、条件が最適と勧めてくれた。岩見沢税務署に相談したら、条件さえ整えば免許を出すということだったので、98年からブドウを植えた(当時は特区なし。6000kg以上)。
現状は、ブドウ栽培12ha(35haのうち、その他は手が回らず荒れ地)。成木8ha、ブドウ収穫量40t(10a単収500kg)。ワイン生産量は年間4万本。ブランドは「山崎ワイン」、出荷は直売(土日営業)とFAXメール注文で80%、残り2割を酒屋、一部レストランに出している。価格は2000円台後半から3000円くらい。酒屋向けは8掛け、レストランは9掛けで卸している。売上高は1億2000万円である(推定、3000円×4万本)。
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叶芳和 カノウヨシカズ
評論家
1943年、鹿児島県奄美大島生まれ。一橋大学大学院経済学研究科 博士課程修了。元・財団法人国民経済研究協会理事長。拓殖大学 国際開発学部教授、帝京平成大学現代ライフ学部教授を経て2012年から現職。主な著書は『農業・先進国型産業論』(日本経済新聞社1982年)、『赤い資本主義・中国』(東洋経済新報社1993年)、『走るアジア送れる日本』(日本評論社2003年)など。
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