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【農業は先進国型産業になった!】
日本ワイン比較優位産業論 現地ルポ 第10回 ワイン技術移転センターの役割 ブルース氏の空知地域振興 合同会社10Rワイナリー(北海道岩見沢市)
- 評論家 叶芳和
- 第30回 2019年11月01日
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注目したいのは、直売が多く、ワイナリーツアーに年間6000人を上回る人が訪れること。素晴らしい(三笠市の人口は8000人)。岩見沢駅から一駅、峰延駅は無人の駅である。そんな辺鄙な田舎に“東京”から訪れる。山崎氏は呆れると言いながら、うれしそうに言う。
ワイナリー新規参入について、「良い選択をした」と言う。奥さんは現在、直売所の仕事を担当しているが、奥さん曰く「あのまま農業していたらジリ貧で、後継者も出なかった」。山崎氏は「奥さんに感謝された。喜ばれた」と言う。
山崎氏の成功は、北海道のワイン産業に大きな影響を与えた。北海道は2000年以降、新たなワイナリーの設立が急増したが、それは1998年頃の気候シフト(注)で、従来北海道では栽培困難と見られていた赤ワイン用高級品種ピノ・ノワールの栽培が可能になったことが背景と見られている。98年にピノ・ノワールを植栽し成功させた山崎ワイナリーはその嚆矢だった。その後に皆が続いた。
山崎氏の見通しでは、岩見沢管内で、あと2~3軒、ワイナリ―が増える。自分の荒れ地も、新規就農者が独立するなら譲る意向である(賃貸でも売買でも)。ワイナリーツアーの増加が地域振興につながることを期待しているようだ。
注:気候シフトとは、気温や風などの気候要素が10年規模~数十年間隔で不連続的に変化すること。北海道は長期的な気候温暖化に加え、1998年頃、この気候シフトがあったと見られている。空知は98年頃から、4~10月の平均気温が14℃以上になった(世界のピノ・ノワール産地は14~16℃)。
2 ワイン技術伝習の公共的役割を果たす――10Rワイナリー
北海道に陽が差してきたと思うようになったのは、気候変動に加え、効果的な「ワイン技術移転センター」が出現しているからである。北海道に移住してきた米国人ブルース・ガットラヴ氏(Bruce Gutlove)は、北海道の地域振興に大きな役割を果たすことになるのではないか。
ブルース氏はカリフォルニア大学デーヴィス校で醸造学を学び、ナパやソノマでワインコンサルタントの仕事をしていたワイン醸造のプロだ。1989年秋に来日し、栃木県足利市にある知的障害者がワイン造りしている「ココ・ファーム・ワイナリー」に20年間勤務し、2009年、本当に自分がやりたいワイン造りがしたいと思い、北海道に移住してきた(本誌前号拙稿参照)。
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叶芳和 カノウヨシカズ
評論家
1943年、鹿児島県奄美大島生まれ。一橋大学大学院経済学研究科 博士課程修了。元・財団法人国民経済研究協会理事長。拓殖大学 国際開発学部教授、帝京平成大学現代ライフ学部教授を経て2012年から現職。主な著書は『農業・先進国型産業論』(日本経済新聞社1982年)、『赤い資本主義・中国』(東洋経済新報社1993年)、『走るアジア送れる日本』(日本評論社2003年)など。
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