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【農業は先進国型産業になった!】
日本ワイン比較優位産業論 現地ルポ 第10回 ワイン技術移転センターの役割 ブルース氏の空知地域振興 合同会社10Rワイナリー(北海道岩見沢市)
- 評論家 叶芳和
- 第30回 2019年11月01日
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岩見沢市栗沢にワイナリーを開設したのは12年である(合同会社10Rワイナリー)。ココ・ファーム時代に原料ブドウを求めて全国を歩き回っていたので、北海道で良質なブドウができることを知っていた。余市もいいブドウが採れるが、余市はアイデンティティが強く、他所からブドウを入れると嫌われる。もともと「委託醸造」をしたかったので、全道からブドウを集められる岩見沢を選んだという。地価が安かったのも大きな理由だ。
委託醸造がブドウ農家を育てる
10Rワイナリーは“カスタム・クラッシュ”(Custom Crash、委託醸造)が主業であり、醸造所を持たないブドウ栽培農家に、醸造の場を提供している。現在、20軒のブドウ生産者がここに醸造委託している。このほか、自分の畑のブドウからもワインを醸している。(筆者注:委託醸造を主業に選んだのは、1次産業より2次産業、2次産業より3次産業の方が所得が高くなるというペティ法則=産業構造発展の方向を考えた側面もあるのだろうか)。
仕組みは、ブドウ生産者がブドウを持ち込み、ブルース氏の指導を受けながら自分で醸造する。できたワインは全量、ブドウ生産者が引き取り、10Rには醸造費を支払う。農家はこのワインを自分のブランドで1本(750ミリリットル)2500~3000円で販売している。高級ワインだ。
ブルース氏は、「こういう醸造をすれば、こういうワインの味になる」と説明はするが、どの方法を選ぶかは個人の自由。販売は委託者本人の責任であるから、どういうワインを造るかは自分で考えなくてはならない。自分なりのワイン哲学を持つことの大切さを指導しているわけだ。ここで実技研修を受けたブドウ生産者は数年後、独立して行く。10Rはワイン造りの「技術伝習所」の役割を果たしている。民間企業でありながら、公共的役割を果たしているわけだ。
ブルース氏の目的は、ブドウ栽培農家を育てることである。ココ・ファーム時代、原料ブドウを求めて全国を歩いたが、日本では良いワイン用ブドウは簡単には手に入らないことが判った。醸造側がワイン用ブドウの生産者を増やす必要を実感したようだ。熱心なブドウ農家のサポートが必要と考え、委託醸造を始めた(ココ・ファーム時代から)。
ブドウ代金の収入だけでは、農家経営は厳しい。例えば、ブドウ価格は1kg250~300円である。単収6t/ha(10a当たり600kg)とすると、1ha当たり粗収入は180万円である。これでは原料用ブドウの供給は増えない。
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叶芳和 カノウヨシカズ
評論家
1943年、鹿児島県奄美大島生まれ。一橋大学大学院経済学研究科 博士課程修了。元・財団法人国民経済研究協会理事長。拓殖大学 国際開発学部教授、帝京平成大学現代ライフ学部教授を経て2012年から現職。主な著書は『農業・先進国型産業論』(日本経済新聞社1982年)、『赤い資本主義・中国』(東洋経済新報社1993年)、『走るアジア送れる日本』(日本評論社2003年)など。
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