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【農業は先進国型産業になった!】
日本ワイン比較優位産業論 現地ルポ 第10回 ワイン技術移転センターの役割 ブルース氏の空知地域振興 合同会社10Rワイナリー(北海道岩見沢市)
- 評論家 叶芳和
- 第30回 2019年11月01日
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委託醸造の仕組み
これに対し、委託醸造にすると、農家収入は5倍になる(表2参照)。1ha経営で6tのブドウを委託醸造すると、ワイン6000本を得る。仮に1本3000円とすると、収入は1800万円。醸造費がワイン価の半分と仮定すると、10Rに支払う醸造費は900万円である。農家の手元に900万円が残る(価格や醸造費について仮定の下の試算)。
農家はブドウを原料として売るよりも、収入が5倍に高まる。もちろん、ワイン販売のリスクを負うが、今のところ良いワインさえ造れば、日本ワインは不足している。
農家は収入が5倍になるだけではなく、自分のワインができるので、やる気が出る。良いブドウを作れば、良いワインになる。ブドウ栽培に情熱が出る。さらに、10Rでワイン技術を取得すれば、やがて独立し、自分のワイナリーを持つ可能性も出てくる。
現在、20軒のブドウ生産者が委託醸造しており、合計60tのブドウを加工している(能力80t)。ワイン生産量は6万本、30種類のワインを造っている。大小さまざまなタンクが並んでおり、サイズは最小60リットルから最大3000リットル(3本)まである。生産者が持ち込むブドウの量が違うからだ。空知管内だけでなく、余市や帯広からもブドウが運ばれてくるが、今年は洞爺湖が一番遠い。今まで一番遠かったのは旭川の北、名寄のブドウ生産者であったが、10Rで6年間技術を習って、今年、自分でワイナリーを建てて独立した。
10Rに委託醸造するブドウ生産者は、将来、独立し、自分のワイナリーを設立する目的を持った人が多い。現在いる20軒のうち、13~15軒は独立希望者たちである。この人たちは数年後、ワイナリー新規参入者となろう。
ブドウ栽培農家の収益性が高まれば、ワイン用ブドウの供給は増える。ブルース氏は、精神論ではなく、市場経済の仕組みを通して、ワイナリー新規参入の予備軍を育てているわけである。この成果は、空知の地域振興に結び付くであろう。
こうしたカスタム・クラッシュは、カリフォルニアではごく普通のようだ。自分のワイナリーを持ちたい人たちが、委託醸造したワインを自分ブランドで売り出しテストランしている(市場の反応を見ている)。ただし、10Rのように、農家が一緒に勉強することはない。委託醸造する農家が10Rで研修し独立していくというインキュベーション機能は10Rだけのものだ。
なお、ブルース氏は自社畑のブドウからもワインを造っている。ピノ・ノワールが多い。10Rのブランドは「上幌ワイン」で、1本3200円で売っている(注:「10Rワイン」ブランドはない)。なお、契約栽培のブドウで造ったワインは2800~3000円である。現在、1.6haの畑でブドウを栽培しているが(これは奥さんの仕事)、もっと増やしたいという。農地9haを所有しており、あと3haは増産可能(4haは北斜面なのでブドウに不向き)。畑を増やせば管理が大変なので、奥さんの判断次第という。
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叶芳和 カノウヨシカズ
評論家
1943年、鹿児島県奄美大島生まれ。一橋大学大学院経済学研究科 博士課程修了。元・財団法人国民経済研究協会理事長。拓殖大学 国際開発学部教授、帝京平成大学現代ライフ学部教授を経て2012年から現職。主な著書は『農業・先進国型産業論』(日本経済新聞社1982年)、『赤い資本主義・中国』(東洋経済新報社1993年)、『走るアジア送れる日本』(日本評論社2003年)など。
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