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【農業は先進国型産業になった!】
日本ワイン比較優位産業論 現地ルポ 第10回 ワイン技術移転センターの役割 ブルース氏の空知地域振興 合同会社10Rワイナリー(北海道岩見沢市)
- 評論家 叶芳和
- 第30回 2019年11月01日
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ブルース氏のワイン造り
ブルース氏は「ブドウがなりたいワインになれるように、お手伝いしているだけ」と言う。そのため、「火入れ」はしない。また、「野生酵母」を使っている(本誌前号拙稿参照)。野生酵母を使うのがブルース氏の特徴でもある。カリフォルニアでもフランスでも、野生酵母を使っているワイナリーはあるが、多くは人工の培養酵母のようだ。その方が失敗しない、安全だからだ。なお、日本で使われている培養酵母はすべて輸入品である(例えば.LAFFORT社製)。
野生酵母は発酵がゆっくりで、予想できない面白い味わいになる。予期しない複雑な香りや味わいを生み出すことがある。柔らかく繊細で口当たりがやさしくなる。個性的で上質なワインになる可能性を広げるようだ。もちろん、速効で予想通りの効果が現れる培養酵母と違い、リスクはあるが。
管理の難しい野生酵母を使いこなす“コツ”は何か、聞いた。3点挙げた。醸造場をきれいにする(清掃)+健全なブドウを使う+欠点の味を除去する。この3点だ。病気のないブドウ、農薬等が付着していないブドウを使う。欠点の味となる酢酸の香り等、こまめに管理して取り除くことが肝要という。うまく野生酵母が働いているかどうか、経験が重なると判るようになるという。タンクを開けて見ただけで判るそうだ。液面のピカピカ具合などで判る。
10Rで研修を受けた委託醸造農家が独立して自分のワイナリーを設立する場合、ほとんどが「火入れ」はしない。また、野生酵母を使っている。皆、高級ワインの生産者になっている。北海道の日本ワイン生産者の中にはブルース氏のワイン造りの示唆を受けた人が多い。余市のドメーヌ・タカヒコの曽我貴彦さん(栃木のココ・ファーム時代に師事した)、栗沢町のKONDOヴィンヤードの近藤良介さん、ナカザワヴィンヤードの中澤一行・由紀子夫妻など、消費者垂涎のワインの造り手たちである。
ブルース氏は委託醸造というユニークな経営形態を通して、空知地域を中心に、次々とワイン造りの担い手を送り出している。ワイン生産、ワインツーリズムが、空知の地域振興の柱になる日が展望できるが、ブルース氏の貢献は大きいと言えよう。
3 10R卒業生・中澤ワイナリーの輝き
岩見沢市栗沢町にあるナカザワヴィンヤードの中澤一行・由紀子夫妻も、10Rの卒業生である。ブルース氏によると、「日本ワインオタクが一番手に入れにくい高級ワイン」。幻のワインである。
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叶芳和 カノウヨシカズ
評論家
1943年、鹿児島県奄美大島生まれ。一橋大学大学院経済学研究科 博士課程修了。元・財団法人国民経済研究協会理事長。拓殖大学 国際開発学部教授、帝京平成大学現代ライフ学部教授を経て2012年から現職。主な著書は『農業・先進国型産業論』(日本経済新聞社1982年)、『赤い資本主義・中国』(東洋経済新報社1993年)、『走るアジア送れる日本』(日本評論社2003年)など。
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