記事閲覧
【土門「辛」聞】
JA米概算金に異変 傘下農協に取引先を奪われる全農
- 土門剛
- 第182回 2019年11月01日
- この記事をPDFで読む
用語解説が遅れをとる概算金制度の変貌
概算金のイロハについて踏まえておこう。不思議なことに当を得た概算金制度の用語解説はない。数年前には農水省が、米穀関係資料の中で概算金の用語解説のようなものを記載していたことがあったが、最新の概算金制度を説明した資料はどこにもないそうだ。担当者のサボタージュで用語解説を記載しなくなったというのではない。ここ2、3年、概算金制度そのものが大きく変化してきているので、担当者も用語解説の書き換えに追いつかないようでもある。
新聞も混乱している。秋の収穫シーズンになると、各紙が概算金の用語解説を試みているが、どれもドンピシャの内容ではない。一番最近の2019年9月20日付け日本経済新聞の用語解説「仮渡し金(概算金)」は噴飯物。14年産までの古い概算金のことを解説しているからだ。
「JAグループがコメを集荷する際、農家に支払う一時金。全国農業協同組合連合会(JA全農)の県本部などが地域農協へ渡し、手数料などを引いた差額を地域農協が農家へ支払う。農家の資金繰りのため、秋に一括して払われることが多い」
内容もお粗末。その日経新聞が同1月23日付けで取り上げた「コメの概算金とは」と題した用語解説と比較すれば分かる。
「JAグループがコメを集荷する際、産地に支払う仮渡し金。全国農業協同組合連合会(JA全農)の県本部が地域農協に払うものと、地域農協が農家に払うものがある。JA全農は買い取り制度への移行を各地で進めている」
9月20日付け用語解説よりもいくぶんか丁寧だが、合格点はやれない。「地域農協が農家に払うもの」を「生産者概算金」と書かなかったことだ。決定的ミスは、その概算金について「産地に支払われる」と書いた点。その名称の通り、生産者に支払われるものである。用語解説といえども丁寧に書いて欲しいものである。
ここで整理しておこう。JA全農から各JAに示されるのが「JA概算金」、各JAが生産者に示すのを「生産者概算金」と呼ぶ。2階建てのような概算金制度がいつ、どのように導入されたか、エピソードをはさみながら説明してみたい。
与党代議士落選運動を展開した全農
いまの概算金制度は、改革をめぐる官邸と全農の激しいせめぎ合いの中で産まれた副産物のようなものだった。安倍政権の国民への公約は、TPPと農協・全農改革の実現。これに農協組織は猛反対。これらが実現すると農協組織は深刻な打撃を受ける。オール農協を代表して全農が公約潰しに乗り出すことになったのだ。全農は政治家の扱いには慣れている。相手の弱点は選挙と踏み、概算金制度を悪用して与党代議士の落選運動を展開したのだ。
会員の方はここからログイン
土門剛 ドモンタケシ
1947年大阪市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科中退。農業や農協問題について規制緩和と国際化の視点からの論文を多数執筆している。主な著書に、『農協が倒産する日』(東洋経済新報社)、『農協大破産』(東洋経済新報社)、『よい農協―“自由化後”に生き残る戦略』(日本経済新聞社)、『コメと農協―「農業ビッグバン」が始まった』(日本経済新聞社)、『コメ開放決断の日―徹底検証 食管・農協・新政策』(日本経済新聞社)、『穀物メジャー』(共著/家の光協会)、『東京をどうする、日本をどうする』(通産省八幡和男氏と共著/講談社)、『新食糧法で日本のお米はこう変わる』(東洋経済新報社)などがある。大阪府米穀小売商業組合、「明日の米穀店を考える研究会」各委員を歴任。会員制のFAX情報誌も発行している。
土門辛聞
ランキング
WHAT'S NEW
- 有料会員申し込み受付終了のお知らせ
- (2024/03/05)
- 夏期休業期間のお知らせ
- (2023/07/26)
- 年末年始休業のお知らせ
- (2022/12/23)
- 夏期休業期間のお知らせ
- (2022/07/28)
- 夏期休業期間のお知らせ
- (2021/08/10)