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おそらく山形県内10農協も同じことだと思う。農水省が農協に示した監督指針には、農協は組合員に対し、概算金の算定根拠や、農協に残るものの内容をきちんと開示し、きちんと説明せよ、という一項がある。これを守らないと農家は農協から逃げていくのだ。
何よりの驚きは、19年産当初の生産者概算金で農協間に1俵1200円の格差があることだ。最高額はJAおいしいもがみとJAてんどうの1万3600円。一方の最安はJAそでうらの1万2400円だった。
生産者概算金が支払われるのは集荷シーズンだ。相場を見ながら、年末に概算金の追加払いがある。場合によっては翌春にさらなる追加払いもある。
JAそでうらは、最安なので追加払いがあると思っていたが、生産者に聞くと、18年産は追加払いがなかったそうだ。
地図をご覧いただきたい。生産者概算金を高く出している農協に地域的な偏りがあることがお分かりいただけよう。県北部の最上地区にほぼ集中していることだ。ここは山形県内でも商人系業者が多いところだ。それだけではない。県外の商人系集荷業者も進出してくることもある。対抗上、農協であっても高目の概算金を出さないと集荷ができない地域なのだ。
一方の庄内地区。ここはライバルとなる商人系集荷業者が少ない。競争が少ない分、生産者概算金は軒並みJA概算金を割り込んだ額だ。
最大の驚きは、JAてんどう。誰も知らない超優良農協である。エリアは天童市なので農地は1500haしかない。それで年間50万俵を扱っている。
農地の規模からすると、農協管内の生産量は15万俵程度。残りは近隣農協からの買い取りだ。もちろん農協を通して買うか、あるいは全農山形から調達するらしい。
JAてんどうの最大の強みは、売り先を持っていることだ。かっぱ寿司やマルハニチロなど大手ユーザーと直結。もちろん全農など通さない。その分、生産者から高く買えるというわけだ。しかも1万3600円の生産者概算金は、一発買い取り価格ということだ。
実際の商いは、100%出資の子会社のJAてんどうフーズが担う。売上高は137億円。JAてんどうは、年間50万俵規模の精米工場建設の計画があるそうだ。米の調達先は、JA概算金を下回る生産者概算金しか出せない県内近隣農協だろう。その分、全農の米商いが細っていくという図式である。
全農が官邸相手に改革反対の政治闘争にかまけていた間に、傘下の農協に取引先を奪い取られているように思えてならない。
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土門剛 ドモンタケシ
1947年大阪市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科中退。農業や農協問題について規制緩和と国際化の視点からの論文を多数執筆している。主な著書に、『農協が倒産する日』(東洋経済新報社)、『農協大破産』(東洋経済新報社)、『よい農協―“自由化後”に生き残る戦略』(日本経済新聞社)、『コメと農協―「農業ビッグバン」が始まった』(日本経済新聞社)、『コメ開放決断の日―徹底検証 食管・農協・新政策』(日本経済新聞社)、『穀物メジャー』(共著/家の光協会)、『東京をどうする、日本をどうする』(通産省八幡和男氏と共著/講談社)、『新食糧法で日本のお米はこう変わる』(東洋経済新報社)などがある。大阪府米穀小売商業組合、「明日の米穀店を考える研究会」各委員を歴任。会員制のFAX情報誌も発行している。
土門辛聞
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