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しかし、疫学研究者の中には、Yes/Noのアンケート調査で農薬の曝露の有無と疾患発生率との相関を調べている人達もいます。
「あなたはがんになったけど、前に農薬を使ったことがない?」と尋ねて、そういえば使ったことがあるなという人は、Yesと答えますよね。それらの結果から、曝露量を調べることなく農薬の発がん性を指摘されても、失礼ながら、我々毒性学者にはどうしても科学的な指摘とは思われないところが正直あります。
もう一つ、今や世界の先進地域では、きちんと農薬のリスク管理がなされていますので、最大限の曝露があったとしても、その値は実験動物に対する無毒性量の100分の1以下のはずです。
したがって、このような量の曝露で本当のがんが誘発され得るのかということについては、今のところ、これまた正直申し上げて、我々は強い疑問を持っています。
こういったところがなかなか一般市民の方々にはご理解いただけないところで、我々の努力が足りないなと感じています。
■正しい認識を広めていく
最後に、専門家と一般市民の認識の違いということで、図13を見てください。
左色のバーは、一般市民のアンケート調査の答え。右色のバーは、我々食品安全委員会の専門調査会委員の人たちの答えです。
我々が認識している発がん要因というのは、アンケート調査時に提示された選択肢の中で優先順位をつけるとしたら、「たばこ」「加齢」「飲酒」「偏食・過食」「病原性微生物」の順になって、専門委員の見解はほぼ一致しています。一般市民の場合、「たばこ」はその通りですが、「食品添加物」ですとか、「残留農薬」、「食品中の放射性物質」など、我々がまず発がん要因にならないと思っているものについて心配されています。一方、注意すべき過度の飲酒や病原性微生物については、驚くほどに無頓着です。一般市民に対して、本当に注意すべきものを知っていただくことも重要ですし、そのためには我々のような専門家が市民の信頼を得ることも必要だと考えています。
最後に、食の安全という見地からして、もちろん農薬の安全確保も必要ですが、それと同様に十分な食料の確保も必要であると我々は考えています。十分な食料の確保には、農薬の適正使用が欠かせないことを理解していただけたら幸いです。
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