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【農業は先進国型産業になった!】
日本ワイン比較優位産業論 現地ルポ 第11回 地球温暖化追い風に技術革新 桔梗ヶ丘メルローの先駆者 (株)林農園五一わいん(長野県塩尻市)
- 評論家 叶芳和
- 第31回 2019年11月29日
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桔梗ヶ原は火山灰土壌のやせた土地で、小石混じりの礫層の上に火山灰が堆積しているため地下水位が低く、水はけが良好だ。また、昼夜の温度差が大きく、糖度の高いブドウができる。年間を通じて雨量は少なく(特に収穫期を迎える夏から秋に雨が少ないのが特徴)、湿度が低い。ワイン用ブドウの生育に好条件の土地である。
明治30年代には多くの農家が入植した。当初は生食用が主流であったが、徐々に需要が減り、昭和初期に大きく変化した。現在、醸造用ブドウの生産が盛んであるが、これには甘味果実酒のための原料ブドウを求めた大手醸造会社の寿屋(現サントリー、1936年進出)、大黒葡萄酒(現メルシャン、1938年進出)を塩尻に誘致したことが大きかった。ブドウ品種も、甘味果実酒の原料となるナイアガラ、コンコードなどアメリカ系の品種が多いのが特徴だ。
第2次大戦中は果樹園の3分の1は雑穀畑に変わり、生食用のブドウは販売が禁止され、ブドウはすべて酒石酸加工に回された(注:酒石酸はワインに含まれる酸で、対潜水艦用の水中聴音機の資材として使われた)。
戦後、さらに大きな転換があった。1964年、東京オリンピックを契機に人々の好みが人工甘味ワイン(赤玉ポートワイン等)から本格ワインへ移り変わった。それに伴い、ブドウ品種も、それまで主流であったコンコードから、メルローなど欧州系品種の導入へと多様化し、今日の発展の基盤がここに形成された。全国一のメルロー産地になったのは、
地球温暖化の影響も大きい(後述)。
また、温暖化で、長野県はほとんどの品種が栽培可能になってきた。これに対し、山梨の場合、赤ワイン用のマスカット・ベーリーAはいい色が出なくなってきて困っているようだ。気候変動が品種構成の変化を促している。ワインは気候変動に敏感な産業だ。
ワイナリーの相次ぐ新規参入
桔梗ヶ原は、全国有数のワイン産地である。表1に示すように、長野県は日本ワイン生産量で山梨県に次ぐものの、醸造用ブドウ生産では山梨県を上回って、全国1位である。山梨は原料ブドウを他地域からの移入に依存する度合いが大きいわけで、長野の方がワイン生産の基盤が整っている。その長野ワインの8割は塩尻産である。
近年、注目されるのが、ワイナリーの新規参入の増加である。塩尻は明治時代からブドウ・ワイン造りが始まったが、ワイナリー数は2000年代初めまでは7社に過ぎなかった。2010年代に入って新規参入が相次ぎ、いまや18社に増えた(表2参照)。近いうち、あと数社の参入が見込まれている(注)。このほか、大手資本のサントリー、メルシャンも桔梗ヶ原で自社畑を拡大した(メルシャンは醸造も開始)。
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叶芳和 カノウヨシカズ
評論家
1943年、鹿児島県奄美大島生まれ。一橋大学大学院経済学研究科 博士課程修了。元・財団法人国民経済研究協会理事長。拓殖大学 国際開発学部教授、帝京平成大学現代ライフ学部教授を経て2012年から現職。主な著書は『農業・先進国型産業論』(日本経済新聞社1982年)、『赤い資本主義・中国』(東洋経済新報社1993年)、『走るアジア送れる日本』(日本評論社2003年)など。
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