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【農業は先進国型産業になった!】
日本ワイン比較優位産業論 現地ルポ 第11回 地球温暖化追い風に技術革新 桔梗ヶ丘メルローの先駆者 (株)林農園五一わいん(長野県塩尻市)
- 評論家 叶芳和
- 第31回 2019年11月29日
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まさに“成長産業”の様相を呈している。しかし、この相次ぐ新規参入の増加は、早くも懸念も生じさせている。桔梗ヶ原では販路を心配する人たちも出てきている。淘汰の時代が近づいているとの見方である。実際には「特区」制度を利用した小規模での参入が多いから、全体への影響はまだまだ小さいが、過剰供給を心配する声も出るくらいの新規参入ラッシュということだ。
いずれ、今の高価格では日本ワインの需要に限界が出よう。均衡価格はもっと低いと思う。「作れば売れる」段階から、低価格で供給できる経営へのイノベーション、あるいは販路開拓が大切な局面に接近していると言えよう。
注:新規参入ラッシュには、高等学校でワイン造りを教える地域に根差した教育やワイン大学の開講など、ワイン人材の供給に地元が取り組んでいることが効果を発揮している(後述)。
2 開園100年の老舗ワイナリー――林農園 五一わいん
桔梗ヶ原は、高級赤ワインの原料となるブドウ品種「メルロー」の特産地として知られている。このメルローを初めて県内に導入しワイン黎明期に栽培していたのが林農園(創業者・林五一氏)である。今日の桔梗ヶ原繁栄の基盤を創った先駆者である。企業は同業他社のことを必ずしも良く言わないのであるが、山梨県勝沼で調査していると、シャトー・メルシャンの関係者は林農園のことを好意的に話す。そんなことで、林農園を取材したいとの思いが募っていたが、今回実現した。
塩尻駅の西口から徒歩20数分、桔梗ヶ原の一角に林農園(2代目林幹雄社長、1929年生)がある。1911年(明治44年)、先代・五一氏が諏訪岡谷から当地に入植し、20世紀梨(2ha)、ブドウ(1ha弱、コンコード他5品種)、リンゴなど果樹栽培を手掛けたことから林農園の歴史が始まった。果樹を始めたのは水やりが不要ということだったようだ。不毛の荒野であったから、「土づくり」には苦労したようだ(いぶき彰吾『ワイン物語~桔梗ヶ原にかけた夢~』塩尻市教育委員会発行2017年参照)。
栽培にとどまらず、イチゴジャム、トマトジュースなどの加工食品にも挑戦した。収穫物を加工して自ら販売もするという経営形態は、当時の農家としては先進的であった。この経営スタイルが後のワイン醸造に繋がったのであろう。
1919年(大正8)には、新潟県の岩の原葡萄園の創業者・川上善兵衛氏の指導を受けながら、ワイン専用品種のブドウ栽培にチャレンジし、本格的なワイン製造を始めた。ワイン醸造開始から数えて、今年は100周年である。
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叶芳和 カノウヨシカズ
評論家
1943年、鹿児島県奄美大島生まれ。一橋大学大学院経済学研究科 博士課程修了。元・財団法人国民経済研究協会理事長。拓殖大学 国際開発学部教授、帝京平成大学現代ライフ学部教授を経て2012年から現職。主な著書は『農業・先進国型産業論』(日本経済新聞社1982年)、『赤い資本主義・中国』(東洋経済新報社1993年)、『走るアジア送れる日本』(日本評論社2003年)など。
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