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【農業は先進国型産業になった!】
日本ワイン比較優位産業論 現地ルポ 第11回 地球温暖化追い風に技術革新 桔梗ヶ丘メルローの先駆者 (株)林農園五一わいん(長野県塩尻市)
- 評論家 叶芳和
- 第31回 2019年11月29日
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その後の温暖化の影響もあって、メルローは桔梗ヶ原を支える主力品種になった。気候変動と技術革新(高接ぎ法等)が桔梗ヶ原を変えたと言えよう。
注:高接ぎ法の効果は大きかった。1984年、大寒波が襲い、マイナス10℃以下の日が冬に40日もあった。寒さに強いと言われたアメリカ系のコンコードやナイアガラまで凍害をうけ、春になっても芽が出なかった。ところが、この時、高接ぎしてあった幹雄氏のメルローは被害を免れ、生き残った。
こうしたことから、凍害に強い栽培方法として「高接ぎ法」が普及し、メルローが桔梗ヶ原に根を張っていった。翌85年から温暖化が始まり(マイナス10℃以下の日が30日はあるのが普通だったのに、5、6日に減った)、この温暖化が追い風となり、メルローは桔梗ヶ原を代表する品種に育っていった。
3 原料ブドウ対策と技術革新――五一わいんの経営概要
五一わいんの経営規模は、ブドウ使用量年間800t、ワイン生産80万本である。大きい。国産ブドウ100%の日本ワインであり、日本ワインのメーカーとしては大手資本のサントリーワインやシャトー・メルシャンを上回る規模である。
ワイナリーは自社畑によるブドウ供給だけでは足りず、購入ブドウに依存するのが普通だ。ワイン年産80万本の五一わいんの場合も、原料の大半は購入ブドウである。一方、農家の高齢化、農業離れは、桔梗ヶ原も例外ではない。原料対策が一番の経営課題である(注:サントリー等大手資本は自社園を拡大しているが、個人農家は減少傾向)。実際、ワイナリー新規参入の増加、一方でブドウ栽培農家の減少から、ワイン醸造用ブドウは不足気味であり、価格が高騰している。
林幹雄社長は戦略を考えている。「小規模では、加工用ブドウを作っても所得が低く、生産者は減っていく。会社の土地を3haくらいにまとめて1軒の農家に任せたい。この方が農家も所得が増える。垣根栽培では1ha300万円になる。3haあれば1000万円になる。農業離れを抑制できる」。「20haくらいまでは会社でやる。それ以上は請負でやらせる」。
地域では農家の離農が続いているが、林農園がその土地を取得し、3haにまとめて請負生産に持っていければ、農地の耕作放棄地が減り、同時に原料ブドウ確保対策になる。いいアイディアと思う。
問題は農地が小規模分散であることだ。借地の交換分合など、農地の集約に行政の協力が望まれる。なお、塩尻市農政課の話によると、産地保全支援員(嘱託職員、元農政部長)が新規就農者の支援、農地斡旋を行ない、団地化志向もあるようだ。
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叶芳和 カノウヨシカズ
評論家
1943年、鹿児島県奄美大島生まれ。一橋大学大学院経済学研究科 博士課程修了。元・財団法人国民経済研究協会理事長。拓殖大学 国際開発学部教授、帝京平成大学現代ライフ学部教授を経て2012年から現職。主な著書は『農業・先進国型産業論』(日本経済新聞社1982年)、『赤い資本主義・中国』(東洋経済新報社1993年)、『走るアジア送れる日本』(日本評論社2003年)など。
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