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【農業は先進国型産業になった!】
日本ワイン比較優位産業論 現地ルポ 第11回 地球温暖化追い風に技術革新 桔梗ヶ丘メルローの先駆者 (株)林農園五一わいん(長野県塩尻市)
- 評論家 叶芳和
- 第31回 2019年11月29日
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スマート栽培
林農園は、戦前は地主であった(30ha)。戦後の農地改革で所有は7haに減った。現在、自社畑は所有地14haである。これでは200t未満しか供給できず、大半は契約栽培農家からの購入ブドウである。自社畑ではメルロー、カベルネ・ソーヴィニヨン、ピノ・ノワール等の赤ワイン専用種、シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブラン等の白ワイン専用種、合わせて15種類のブドウを栽培している。
現在、約100人の生産者と契約栽培している。この地域の農家は昔、林農園の小作だったこともあり、そこと契約栽培している。遠くは山梨県甲府市の七沢地区の人たちとも契約栽培している。
しかし、農家高齢化、生産者の減少に対して、ワイナリーは技術革新で対応している。林幹雄社長はブドウ栽培方法の効率的技術(省力化技術)を開発した。
15年前、世界的なブドウ栽培家R・スマート氏が日本に来て「スマート式栽培」(スマート・マイヨルガーシステム)を紹介した。ブドウ栽培を省力化する技術である。幹雄氏はそれにヒントを得て、改良スマート方式「ハヤシ・スマート方式」を開発した。
通常、日本国内における棚づくりでは枝を幹から四方に伸ばすが、この方式では、発芽した新芽をすべて一方向(北向き)に伸ばす方法で、この結果、作業が簡略化され、通常の棚栽培に比べ40%省力化できる。さらに、葉に効率よく日光が当たり、完熟したブドウを収穫できる。
栽培技術は棚方式と垣根方式に大別される。棚栽培は収量が多いが品質は垣根に劣る。農家は省力化より収量選好であり、垣根式を嫌がる。ハヤシ・スマート方式は棚栽培でありながら、収量を大きくは落とさず(棚栽培は通常2t、スマート式は1.7t)、大幅に省力化する。品質も、垣根に近いブドウを作る。収量より省力化を選好する技術だ。いま、林農園はすべてスマート栽培であり、契約栽培農家にもスマート方式を指導している。樹は植え替えなくてもできる。
醸造工程も、発酵テクニックや発酵設備がヨーロッパから入っていて、テクノロジー上の進歩は大きいようだ。ポイントはいかに酸化せずに醸造するかだ。最近の進歩(ホント?)は、アルゴンガスの利用だ。アルゴンガスは酸化を防止するのに効果的であるが、日本では使用が認められなかった。それが今年9月から、EUとの貿易交渉をうけて、日本でも使用できるようになった。また、世界では当たり前に使われていたオークチップも(樽を使わなくても、樽を使ったような効果が出る)、今年4月からの使用が認められた。
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叶芳和 カノウヨシカズ
評論家
1943年、鹿児島県奄美大島生まれ。一橋大学大学院経済学研究科 博士課程修了。元・財団法人国民経済研究協会理事長。拓殖大学 国際開発学部教授、帝京平成大学現代ライフ学部教授を経て2012年から現職。主な著書は『農業・先進国型産業論』(日本経済新聞社1982年)、『赤い資本主義・中国』(東洋経済新報社1993年)、『走るアジア送れる日本』(日本評論社2003年)など。
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