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特集

緊急セミナー ラウンドアップ問題を考える 誌上採録・後編

「緊急セミナー『ラウンドアップ問題』を考える」の最後を飾るパネルディスカッションでは、青山博昭・唐木英明両氏に、米国のラウンドアップ裁判に詳しい農業ジャーナリストの浅川芳裕氏と、りんご農家の水木たける氏が加わり、食生活ジャーナリストの会代表の小島正美氏がコーディネーターを務めた。ディスカッションのテーマは、ラウンドアップ裁判の背景にある訴訟ビジネスや政治対立の実態、不当な裁判に臆せず闘う米国生産者の姿から、IARC(国際がん研究機関)の分類に関する疑問やセラリーニ論文の非科学性に及んだ。当日会場に駆けつけた畑作農家の片岡仁彦氏と水木氏は、ラウンドアップを日常的に使用する現場の立場から農薬問題を語り、情報発信のあり方を提言した。
パネリスト
青山博昭氏(一般財団法人残留農薬研究所業務執行理事・毒性部長)
唐木英明氏(公益財団法人食の安全・安心財団理事長/東京大学名誉教授)
水木たける氏(青森県弘前市のあっぷるりんご園代表)
浅川芳裕氏(農業ジャーナリスト)
コーディネーター
小島正美氏(食生活ジャーナリストの会代表)

ラウンドアップ裁判の背景には訴訟ビジネスが

小島 パネルディスカッションを始めます。私が不思議でならないのは、裁判所がなぜ原告の非科学的な話を信用して、巨額の賠償金を認めてしまうのかということです。米国のラウンドアップ裁判の背景について浅川さんに伺いたい。
浅川 3億ドル(約320億円。後に7850万ドルに減額)の賠償を命じたジョンソン対モンサント裁判の経緯はどうだったのか。まず原告側弁護士がどの時点で裁判に勝てると判断したかというと、2015年3月にIARCがラウンドアップ(有効成分グリホサート)をグループ 2A(おそらく発がん性がある)に分類したというニュースを知ったときだと話しています。そのニュースを知るやいなや原告募集のサイトを立ち上げました。
原告弁護士の一人、リッツンバーグ氏は「私の専門は発がん性商品の不法行為を問う訴訟案件だ。担当していたがん関連裁判が一息ついたので、事務所にとって次の大きな獲物を探していた。そんなとき、IARCによるグリホサートに発がん性があるとの報道を知った。そこで、製造元モンサントを相手取って裁判を起こすことを決め、(原告の)一般公募を開始した。」とリッチモンド大学の取材で答えています。
つまり先に被害があって、その救済のために訴訟を起こしたのではなく、IARCの判断を受けて多額の賠償金が取れそうな案件を見つけたので、訴訟を起こすためにラウンドアップに長年接触した原告を探したという流れなのです。テレビ広告やネット広告を打つリッツンバーグ氏のサイトには「もし、あなた自身あるいは愛する人がラウンドアップに接触したことがあれば、補償される権利を有するかもしれません」「あなたが有利な判決を勝ち取るために、 私には独自の勝利の方程式があります」「ほかの多数の弁護士事務所も同様の広告を出していますが、モンサントを相手取ってラウンドアップ裁判に集中できる弁護士は私を筆頭に数人しかいません」といった宣伝コピーが躍り、裁判に訴えましょうと呼びかけたのです。
発がん性については原告側と被告側科学者双方の主張が完全に分かれたわけですが、最終的に判断するのは一般の陪審員たちで、民事訴訟はどちらの言い分が51%正しいかを判断するものです。裁判資料を数多く読みましたが、陪審員の感情を揺さぶる弁論は原告弁護士が圧倒的にうまかった。米国の法廷ドラマなんて目じゃない。まるで陪審員に被告側の不法行為を印象付け、原告側の主張に誘導するゲームを見ているようでした。判決では、発がん性について悪意を持って隠して販売したということで巨額の賠償を課され、弁護士はその何割かを成功報酬として受け取る。相当な広告費を投じても十分ペイする訴訟ビジネスの格好の標的とされたのです。

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