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【農業は先進国型産業になった!】
日本ワイン比較優位産業論 現地ルポ 第12回 ワインツーリズムのまちづくりエッセイストの構想が実現ヴィラデストワイナリー(長野県東御市)
- 評論家 叶芳和
- 第32回 2019年12月23日
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隣の上田市(人口16万人)も、玉村氏のワインアカデミー(後述)で学んだ人たちがブドウ栽培用の土地を求めて流入し、荒廃地の減少につながっている。上田市のワイン用ブドウ栽培面積は、新規就農者10人の約23haのほか、大手のメルシャンの自社畑22.5ha(桑畑が遊休荒廃地化していたのを03年、ブドウ畑へ)、マンズワイン5haがあり、合計50haに達している(注:メルシャンは最終的には30haまで拡大か)。
この一帯はもとは養蚕業で栄えた土地であったが、蚕糸業の衰退に伴い荒廃地になっていた桑畑がブドウ畑に生まれ変わったのである。水を嫌い、陽当たりを好む桑山と、ワイン用ブドウの栽培条件はピッタリと重なる。
江戸時代は水田の開発が多いが、明治・大正期に開墾された土地は山側の傾斜地などが多いのではないか。明治初期の殖産興業の花形は生糸であり、それに伴い傾斜地の桑畑向け開墾が多かった。それが現代の再開墾の対象になり、各地でブドウ畑に変わっている。現代の開墾はワイン用である。荒廃地の再開墾が進めば、ヴィンヤードが広がる。シルクからワインへ。ワイナリーが元気のある地域を創造している。
もう一つ注目したいことがある。ワイナリーの新規参入の意義は、荒廃農地の解消にとどまらない。「農業は最高の職業」と考える若い人たちの自己実現のための職業選択の幅を広げている。この効果は高く評価されるべきである(後述、第3節参照)。
[2]景観雄大なヴィンヤード、年間3万人訪問――ヴィラデストワイナリーの経営概況
千曲川ワインバレー(東地区)は軽井沢の先、小諸市、東御市、上田市を流れる千曲川沿岸に広がり、東京から新幹線で1時間半の距離である。右岸(東御市等)は湯の丸高原(浅間山の外輪山)の裾に位置し、標高も高く、冷涼な気候で、十分な糖度と酸度を保ったブドウが収穫でき、シャルドネやピノ・ノワール等の評価が高い。左岸(上田市丸子等)は右岸より標高が低いため、カベルネ・ソーヴィニヨンやメルローなどボルドー系品種の栽培に優れている。
【プレミアムワイン志向】
ヴィラデストワイナリーは東御市にある。湯ノ丸山の南麓に位置し、陽当たりが良く、傾斜地で水はけがいい。この一帯は日本有数の少雨地帯である。降水量が少ない、日照時間が長い、昼夜の寒暖差が大きいという、ブドウの生育に適した3つの気候条件をもっている。ヴィラデストはワイン造りには恵まれたテロワールを備えている。標高は800~850m。眼下に東御や上田の街、さらに遠くには雪をかぶった北アルプスの遠望があり、雄大な景観だ。
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叶芳和 カノウヨシカズ
評論家
1943年、鹿児島県奄美大島生まれ。一橋大学大学院経済学研究科 博士課程修了。元・財団法人国民経済研究協会理事長。拓殖大学 国際開発学部教授、帝京平成大学現代ライフ学部教授を経て2012年から現職。主な著書は『農業・先進国型産業論』(日本経済新聞社1982年)、『赤い資本主義・中国』(東洋経済新報社1993年)、『走るアジア送れる日本』(日本評論社2003年)など。
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