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【農業は先進国型産業になった!】
日本ワイン比較優位産業論 現地ルポ 第12回 ワインツーリズムのまちづくりエッセイストの構想が実現ヴィラデストワイナリー(長野県東御市)
- 評論家 叶芳和
- 第32回 2019年12月23日
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レストランはしっかりしたコース料理で、ランチは3600円だ。席数30席。雄大な景観を眺めての食事は好評のようだ。サパーコースもある。売上高はワイン約1億円(筆者推定:3000円×3万本)。この他、ショップのグッズ類、レストラン消費がある。
従業員は20名。年間訪問客は3万人に上る。かなりの数だ。東京から大型バスで来るようだ(参考:年間250万人が訪れる山梨県勝沼の事例では、シャトー・メルシャン5万人超、中央葡萄酒3万人、久保田農園ブドウ狩り2.5万人)。
注:(消費者である筆者のコメント)味の濃い薄いと、美味しさは同じではない。味の薄い方が和食に合うのは確かであるが、日本の赤ワインはスタンダードの向上が望まれる。「日本ワインおたく」の存在が今の日本ワイン消費を支えている側面があるが、もっとスタンダードを引き上げないと、情報が完全な市場になると、安い美味しい輸入ワインに勝てないのではないか。気象や土壌など地域のテロワールに適したブドウ品種を選び、もっと良質なブドウを収穫できるよう研究開発努力が期待される。日本ワインは経営規模が小さいので、コストダウンには限界があり、美味しさで競争することになる。
[3]醸造家のインキュベーション(孵化)――アルカンヴィーニュとアカデミー事業
ヴィラデストは、ワイン産業の人材育成も行なっている。兄弟ワイナリーで開講している「千曲川ワインアカデミー」がその役割を果たしている。
ワイン産業は農産物の価値を上げるため食品加工・流通販売まで業務展開した経営形態「6次産業」と言われるが、経営者の哲学も「農家」的で、技術交流などオープンなところがある。一番古くからのワイン産地である山梨勝沼は人口8000人の小さな町であるが、30余りのワイナリーが密集している。そこでは新規参入するワイナリーは先輩ワイナリーで研修させてもらっている事例が沢山ある(本誌2019年5月号、拙稿「現地ルポ第4回」参照)。昔の農家の技術普及に似ている。最大手のシャトー・メルシャンは、「技術を共有してワイナリーが切磋琢磨しないと、勝沼は銘醸地にならない」と、産地形成への強い思いから、甲州種ワインの品質を高めた「シュール・リー製法」や「甲州きいろ香」の技術を公開した(本誌同4月号、拙稿「現地ルポ第3回」)。また、塩尻市はワイン産地の活性化を目的に、「塩尻ワイン大学」を開講し(2014年から)、ワイン人材を育て、新規ワイナリーの相次ぐ誕生をもたらしている(本誌同12月号、拙稿「現地ルポ第11回」)。
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叶芳和 カノウヨシカズ
評論家
1943年、鹿児島県奄美大島生まれ。一橋大学大学院経済学研究科 博士課程修了。元・財団法人国民経済研究協会理事長。拓殖大学 国際開発学部教授、帝京平成大学現代ライフ学部教授を経て2012年から現職。主な著書は『農業・先進国型産業論』(日本経済新聞社1982年)、『赤い資本主義・中国』(東洋経済新報社1993年)、『走るアジア送れる日本』(日本評論社2003年)など。
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