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【農業は先進国型産業になった!】
日本ワイン比較優位産業論 現地ルポ 第12回 ワインツーリズムのまちづくりエッセイストの構想が実現ヴィラデストワイナリー(長野県東御市)
- 評論家 叶芳和
- 第32回 2019年12月23日
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ワイン造りの夢を持って参入し、ブドウを栽培、収穫できても、すぐには自分でワインにすることはできない人たちがいる。自前の醸造装置を持たない人はブドウを他人に売らないといけない。彼らは大手メーカーにブドウを売るだけの立場であるが、委託醸造の場合は、栽培者からブドウの醸造を引き受け、本人ブランドのワインを造ってあげる。その過程でワイン造りを実地に学んでもらうよう助力する。何年か栽培と醸造を繰り返していくうちに技術を身につけ、独立して自前のワイナリーを創業する。玉村氏の表現を借りれば、委託醸造は「ゆりかご」の役割を果たしているわけだ。
千曲川ワインバレーに続々と集まってくる若いブドウ栽培家たちからの委託醸造を請け負っているのが「アルカンヴィーニュ」である。(注:この委託醸造は、本誌同11月号拙稿(現地ルポ第10回)で詳細に述べた北海道の「10Rワイナリー」(ブルース・ガットラヴ氏経営、12年から)が有名である)。
アルカンヴィーニュはヴィラデストとは別会社になっているが、同じく玉村氏と小西社長が経営者である。国の資本(農林漁業成長産業化支援機構のファンド)が一部入っているため別会社の形をとっているが、兄弟ワイナリーである。
アルカンヴィーニュの規模は、委託醸造2万本、自社分2万本(県内農家からの購入ブドウ、2000円台のカジュアルな価格)、計4万本である。ワインアカデミー卒業生のうち10人がここに委託している。先に表2に示した「リュードヴァン」や「はすみふぁーむ」も、当初はアルカンヴィーニュの委託醸造の顧客であった。既に自前のワイナリーを建設した人が6人いる。これからの人も何十人もいる。千曲川ワインバレー地域のワイナリーは4、5軒であったが、今や25軒になった(高山村、小布施町など北信も含む)。まだまだ増えていきそうだ。
ワインアカデミー及び委託醸造を通して、ワイン人材のインキュベーション(孵化)を行なっている訳だ。千曲川ワインバレーの形成発展において、ヴィラデストの貢献は高く評価されよう。
将来の問題があるように思われる。今ブドウ栽培者の立場にいる人たちが次々に醸造まで進み、ワイナリーの新規参入ラッシュが続いた場合、いつか「市場の壁」にぶつかる。販路が見つからず、経営破綻あるいはワイン価格の値下げを選択する経営も出てこよう。プレミアムワインだけではなく、カジュアルなワインも供給される。逆に、そうなって初めて、庶民が日常的にワインを飲むようになり、地域にワイン文化が根付いていく可能性も出てこよう。
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叶芳和 カノウヨシカズ
評論家
1943年、鹿児島県奄美大島生まれ。一橋大学大学院経済学研究科 博士課程修了。元・財団法人国民経済研究協会理事長。拓殖大学 国際開発学部教授、帝京平成大学現代ライフ学部教授を経て2012年から現職。主な著書は『農業・先進国型産業論』(日本経済新聞社1982年)、『赤い資本主義・中国』(東洋経済新報社1993年)、『走るアジア送れる日本』(日本評論社2003年)など。
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