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【農業は先進国型産業になった!】
日本ワイン比較優位産業論 現地ルポ 第12回 ワインツーリズムのまちづくりエッセイストの構想が実現ヴィラデストワイナリー(長野県東御市)
- 評論家 叶芳和
- 第32回 2019年12月23日
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[4]ワインツーリズムの難しいところ――ワイン文化を育めるか
ヴィラデストの顧客は年間3万人に上る。東御市のワイナリーでカフェがあるのは、今のところヴィラデストとリュードヴァンの2軒だけであり、ワイナリーツアー客はまだ少ない(注:リュードヴァンのカフェは土・日営業なので顧客はヴィラデストの10分の1くらいか)。東御市全体でも、今のところ年4万人以下のようだ(注:東御市の年間観光客数は60万人)。しかも、東京から大型バスで直接ワイナリーに来るので、地域への波及効果は小さい。いわゆる「飛び地経済」になっている。
そういうことで、今のところ、ワインツーリズムが地域を潤す状況は少ない。東京から新幹線で1時間半の距離であり、アクセスが良いわけだから、ワイナリー観光客の増加が期待される。問題点として「移動」の制約が言われている。ワイナリー立地が分散しているため、ツーリズムが発生しないという分析だ。そこで、3年前から、循環バスが1日5便走っている(6~11月)。1日乗り放題2000円。しかし、利用者は少なく、今年は年間で555人にとどまった。10軒のワイナリーを繋ぐだけでは集客できないようだ。ワイナリーを飲み歩くわけではないので、ワイナリーが増えても、集客できない。循環先にワイナリー以外の観光スポットの開発が必要なようだ。
しかし、潜在的には、東御市のワインツーリズムは産地間競争が強いと考えられる。千曲川ワインバレーは景観がいい、東京から1時間半であり観光に来やすい、ワインの品質が高い、等々。
ブドウの品種を比べると、勝沼の品種は欧州系のワイン専用品種ではなく、甲州やマスカット・ベーリーAなど日常的に飲む酒であり、塩尻桔梗ヶ原もコンコードやナイアガラであって、これから欧州系に移行するところである。これに対し、千曲川バレーはワイン専用品種であり優位に立っており、ワインツーリズムに強い要素を備えている。千曲川のライバルは勝沼や塩尻ではなく、北海道であるという見方もある。
ヴィラデストのカフェ集客力が、市域全体への広がりになることが望まれる。そういう点では、年間250万人の山梨勝沼が上である。勝沼は「一升瓶から湯呑み茶碗」で飲むというワイン文化がある。そこまで地域全体がワイン産業を支えている。ワイン文化を地域の人たちの暮らしの中にもワインが浸透している状況と定義するなら、東御市にはまだワイン文化は根付いていない。
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叶芳和 カノウヨシカズ
評論家
1943年、鹿児島県奄美大島生まれ。一橋大学大学院経済学研究科 博士課程修了。元・財団法人国民経済研究協会理事長。拓殖大学 国際開発学部教授、帝京平成大学現代ライフ学部教授を経て2012年から現職。主な著書は『農業・先進国型産業論』(日本経済新聞社1982年)、『赤い資本主義・中国』(東洋経済新報社1993年)、『走るアジア送れる日本』(日本評論社2003年)など。
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