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新・農業経営者ルポ

日本一安いネギを作る

日本一安いネギを作る――。こう言ってはばからないのは、コメを作るために開拓された秋田県大潟村で、コメを一切作らないという道を選んだ(有)正八代表取締役の宮川正和だ。生産するネギの行き先はラーメンを一杯400円台から提供する有名チェーン店。売価から逆算して作業当たりの経費を割り出した。その範囲に収めるべく、スピードアップに機械を改造したり、出荷の規格を簡素化したりし、中国産と変わらない価格を実現した。 文・写真/窪田新之助、山口亮子、写真提供/(有)正八

冬場の仕事に業務用ネギ

「コンセプトは日本一安いネギ。中国産の値段で売っているから」
日本海から雪混じりの風が吹き寄せる大潟村の正八の事務所で、宮川はこう断言した。車で10分ほどの男鹿市内に露地栽培のネギの農場があり、あいにくの天気ながらも午後に収穫作業をする予定だという。
加工工場や飲食店で使われる業務用ネギは中国産の割合が圧倒的に高い。国産で同じ値段のネギがあれば国産にシフトするはずだ。
「生食用と業務用では、求められる規格が違うから、規格の簡素化で中国産と値段を合わせられるんじゃないか」
こう考え、2012年に1haから始めた。毎年2、3haずつ拡大し、19年は15ha生産した。同年、埼玉県熊谷市に40haの農地を取得した。その半分の20haが加わり、今年の栽培面積は一気に35haになる。秋田の農場で7月下旬~12月上旬まで出荷してきた。熊谷で12~4月上旬に出荷できるようにすれば、9カ月にわたって出荷が続けられる。
「正八と関連会社に25人ほど人がいるけれども、冬場の仕事が少ない。ハウスがあるからって10棟や20棟でホウレンソウを作っても、一冬も仕事が持たない。人がいても大してやることがないから、うち10人くらいは熊谷に行かないと」
こう話す宮川の後ろの窓から、薄灰色のどんよりした空とすっかり葉を落とした防風林が見える。日照量が極端に減り、風雪が強まる長い冬は、秋田県内の雇用型の農業法人にとって最大のネックだ。冬の間に熊谷に移れれば、仕事の確保になるし、産地リレーもできる。しかも、うまい具合に秋田で出荷が終わる時期と、熊谷で出荷が本格化する時期がほぼ切れ目なくつながる。
注力するネギは、実は長年、作るのを避けてきた品目だ。大潟村の北にある能代市で白神ネギの生産が盛んで、自分がわざわざやらなくてもと思っていた。そんなとき、ネギを出荷してほしいという関係上断りづらい依頼が舞い込み、作付けを検討することになった。

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