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【特集】
食と農 安全・安心を考える 有機農業が唯一の解決策ではない みんなが食べ続けていくために選択の自由を守る
- 紀平真理子
- 2020年01月29日
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座談会
唐木 英明氏 公益財団法人食の安全・安心財団理事長 東京大学名誉教授
森田 満樹氏 消費生活コンサルタント 一般社団法人Food Communication Compass(フーコム)代表
久松 達央氏 株式会社久松農園代表取締役
聞き手・まとめ 紀平 真理子
まき散らされる「食の危険情報」。不安が煽られる。そんな時代のなかで 「リスクコミュニケーション」をいかにとっていくか。
唐木 英明氏 公益財団法人食の安全・安心財団理事長 東京大学名誉教授
森田 満樹氏 消費生活コンサルタント 一般社団法人Food Communication Compass(フーコム)代表
久松 達央氏 株式会社久松農園代表取締役
聞き手・まとめ 紀平 真理子
まき散らされる「食の危険情報」。不安が煽られる。そんな時代のなかで 「リスクコミュニケーション」をいかにとっていくか。
私たちは、かつては「口」で食べ物を食べていた。その後「目」で食べる時代になり、現在は「頭」で食べている。それに伴い農家の役割も、以前のように国民のための食料生産から、消費者の「頭で食べる」欲求を満たすための農産物の生産に変わった。そのため農産物は、マーケティング優位で情報を添えて語られるようになった。
日本に暮らす私たちは、「生きるため」ではなく「楽しむため」に食べる豊かな生活を送ることができている。それにも関わらず、食に関する危険情報がインターネット上にはあふれ、不安に陥っている人が後を絶たない。選択肢が増え、豊かな時代になったのに、自らなぜ選択を狭めてしまう行動を取ってしまうのか? この状況に対して、私たちは何ができるのか?
紀平 FOOCOM(非営利の消費者団体Food Communication Compassの略称)12月6日のメールマガジンで、食生活アドバイザーの瀬古博子さんが、「オーガニックは世界を食べさせられない」とのタイトルで記事を配信しました。そのなかで、グリホサート(ラウンドアップの主成分)と、オーガニックに関するEFSA(欧州食品安全機関)のウール長官の発言が紹介されています。「2050年には100億人が地球に住んでいる。グローバルな視点では、有機は解決策ではない。土壌の健康など有機農業の長所と、高収量という慣行農業の長所を組み合わせる必要がある」。
有機農家である久松さんが、現在感じていることを教えていただけますか。
久松 現在49歳で、20代半ばで有機農業を始めました。農業を始めた当初は、「農薬は悪いもので、それを使い続けている農家は見識に劣る古い人。『正しい農業』である有機農業をやれば、食べる人にも安全で、高品質の農産物ができ、環境にもいい」と本当に信じていました。ベタな有機農業信者だったわけです。
実際にやってみると、さまざまな矛盾に気がつきます。有機という一つの生産プロセスだけが、農産物を規定するわけもなく、すべては程度の問題です。就農して比較的早い段階で、科学の側から意見をいう人と議論をする機会があったこともよかったと思います。
今でも、「憧れている美しい農業のあり方」「純然たる農業生産技術」「客観的・科学的に農業を見ている人の意見」というそれぞれ矛盾する考えが、自分のなかに混在しています。だから簡単に何かに取り込まれないし、常に考え続けるところに身を置かなければならないんです。有機農業には、愛憎半ばする思いを持っていて、単純にいいとも悪いともいえません。本当に問題について勉強している人は、簡単に「イエス」「ノー」を割り切れないはずです。
日本に暮らす私たちは、「生きるため」ではなく「楽しむため」に食べる豊かな生活を送ることができている。それにも関わらず、食に関する危険情報がインターネット上にはあふれ、不安に陥っている人が後を絶たない。選択肢が増え、豊かな時代になったのに、自らなぜ選択を狭めてしまう行動を取ってしまうのか? この状況に対して、私たちは何ができるのか?
有機はピラミッドの頂点ではない――有機生産者の立場から
紀平 FOOCOM(非営利の消費者団体Food Communication Compassの略称)12月6日のメールマガジンで、食生活アドバイザーの瀬古博子さんが、「オーガニックは世界を食べさせられない」とのタイトルで記事を配信しました。そのなかで、グリホサート(ラウンドアップの主成分)と、オーガニックに関するEFSA(欧州食品安全機関)のウール長官の発言が紹介されています。「2050年には100億人が地球に住んでいる。グローバルな視点では、有機は解決策ではない。土壌の健康など有機農業の長所と、高収量という慣行農業の長所を組み合わせる必要がある」。
有機農家である久松さんが、現在感じていることを教えていただけますか。
久松 現在49歳で、20代半ばで有機農業を始めました。農業を始めた当初は、「農薬は悪いもので、それを使い続けている農家は見識に劣る古い人。『正しい農業』である有機農業をやれば、食べる人にも安全で、高品質の農産物ができ、環境にもいい」と本当に信じていました。ベタな有機農業信者だったわけです。
実際にやってみると、さまざまな矛盾に気がつきます。有機という一つの生産プロセスだけが、農産物を規定するわけもなく、すべては程度の問題です。就農して比較的早い段階で、科学の側から意見をいう人と議論をする機会があったこともよかったと思います。
今でも、「憧れている美しい農業のあり方」「純然たる農業生産技術」「客観的・科学的に農業を見ている人の意見」というそれぞれ矛盾する考えが、自分のなかに混在しています。だから簡単に何かに取り込まれないし、常に考え続けるところに身を置かなければならないんです。有機農業には、愛憎半ばする思いを持っていて、単純にいいとも悪いともいえません。本当に問題について勉強している人は、簡単に「イエス」「ノー」を割り切れないはずです。
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紀平真理子 キヒラマリコ
1985年、愛知県生まれ。2011年、オランダへ移住し、食や農業に関するリサーチ、本誌や馬鈴薯専門誌『ポテカル』への寄稿を開始。2016年、オランダVan Hall Larenstein University of Applied Sciences農村開発コミュニケーション修士卒業。同年10月に帰国し、農業関連記事執筆やイベントコーディネート、海外資材導入コーディネート、研修・トレーニング、その他農業関連事業サポートを行なうmaru communicateを立ち上げる。今年9月、世界の離乳食をテーマにした『FOOD&BABY 世界の赤ちゃんとたべもの』を発行。食の6次産業化プロデューサーレベル3認定、日本政策金融公庫農業経営アドバイザー試験合格。
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