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【農業は先進国型産業になった!】
日本ワイン比較優位産業論 現地ルポ 第13回(番外編)世界ワインは成長産業か?西欧先進国は消費減、輸出伸長
- 評論家 叶芳和
- 第33回 2020年01月29日
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【1】ワインのヌーベルバーグ――産業社会の変動期を先駆ける
2000年代に入って、ワイン産業は「新しい波」が現れた。栽培、醸造、さらに品種でも新しい動きが現れた。仏映画界に1950年代、商業映画に束縛されず自由奔放な映画制作が現れた。「新しい波」(ヌーベルバーグ)だ。最近の日本ワインの動きには、それを彷彿とさせるものがある。
「野生酵母」が面白い。日本のワイン造りは1980年代以降、人工の「培養酵母」を使うのが普通になった。培養酵母は扱いやすく、失敗しない、安全だからだ。これは世界の流れでもある(日本で使われている培養酵母はすべて輸入品)。
しかし、2000年代に入って、野生酵母を使うワイナリーが出てきた。野生酵母は管理が難しいが、発酵がゆっくりで、予想できない面白い味わいになる。予期しない複雑な香りや味わいを生み出すことがある。柔らかく繊細で口当たりがやさしくなる。つまり、個性的で上質なワインができる。速効で予想通りの効果が現れる培養酵母と違いリスクはあるが、美味しいワインを目指すワイナリーたちがこの野生酵母を使い始めている。
野生酵母を使う人たちは醸造において人の介在を嫌い、「ブドウが成りたいワインになれるように、お手伝いするだけ」というのが信条だ。そのため、「火入れはしない」。人工酵母も使わない。
今でも、多数派は人工酵母である。大規模ワイナリーはリスクのある野生酵母は使えない。小規模ワイナリーが野生酵母を使っているが、まだ少数派だ。欧米でも然りだ。
野生酵母を使う場合、原料ブドウは有機栽培である。農薬を使うと野生酵母が働かないからだ。無農薬栽培が前提になる。また、亜硫酸等の添加物も使わない。無農薬、野生酵母、亜硫酸塩ゼロのワイン、つまり、「自然派ワイン」が出てきたのである。新しい潮流の主体は、小規模なワイナリーである。
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叶芳和 カノウヨシカズ
評論家
1943年、鹿児島県奄美大島生まれ。一橋大学大学院経済学研究科 博士課程修了。元・財団法人国民経済研究協会理事長。拓殖大学 国際開発学部教授、帝京平成大学現代ライフ学部教授を経て2012年から現職。主な著書は『農業・先進国型産業論』(日本経済新聞社1982年)、『赤い資本主義・中国』(東洋経済新報社1993年)、『走るアジア送れる日本』(日本評論社2003年)など。
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