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【農業は先進国型産業になった!】
日本ワイン比較優位産業論 現地ルポ 第13回(番外編)世界ワインは成長産業か?西欧先進国は消費減、輸出伸長
- 評論家 叶芳和
- 第33回 2020年01月29日
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産業社会は変動期に来ている。高所得だけが職業選択の要因ではなくなりつつある。労働時間短縮に着目した「働き方改革」も、政策の輝きを失っている。クリエイティブな仕事が人々を引き付けている。今後AIが進歩すれば、なおさらであろう。
こうした若者の価値観の変化が社会(産業社会)に与える影響を取り込んだ産業論がない。ワイン産業(日本ワイン)はこの価値観の変動を体化(embody)しており、産業社会の新潮流を先駆けている。ワイン論は文化論やソムリエ型解説ではなく、産業社会の新潮流を取り込んだ議論が期待される。こうした新しい潮流は広く経済学にも影響を与えていくであろう。
■スモールビジネス優位
ワインはスモールビジネスである。小さい企業が多いと言っているわけではない。小さい企業の方が有利であるという意味で、「スモールビジネス」と言いたい。
良いワインを造るのに、smallビジネスは優位に立てる。先述したように、野生酵母は大企業ではリスクが大きくて採用できない。また、自己表現できる産業という点でも、smallビジネスがいい。幸い、ワインは製品差別化が大きい製品であるから、消費者の価格選好は比較的小さく、規模の利益の重要性が相対的に小さい。経営形態上、ワイン産業はスモールビジネスが優位にあると言えよう。
もちろん、小さければよいというものではない(十分条件ではない)。慣行的なワイン造りを脱し、科学的知見に基づいてブドウ本来の能力を100%引き出して美味しいワインを造る“科学する醸造家”だけが「スモール・イズ・ビューティフル」なのである。
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「スモールビジネス優位産業」説は、産業論としての概念の試みである。自然派ワインが日本に登場したのは約20年前、2000年代初めと言われる。しかし、「自然派ワイン」という概念は、「産業論」としての概念ではない。20年を経過しているにもかかわらず、産業論がなかった。
産業論にもヌーベルバーグが必要だ。高度成長期以降を見ても、ベンチャービジネス(中村秀一郎・清成忠男、1970年代)、ハイテク産業、等々、概念が道しるべとなって産業発展を導いた。新しい概念が産業界を革新した訳だ。今、産業界は広く「マイクロ革命」が起きている。半導体の進歩が引き起こした新しい波である。色々な産業にヌーベルバーグが現れているのではないか。新しい概念を付与することで、経済発展の可能性が出て来よう。
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叶芳和 カノウヨシカズ
評論家
1943年、鹿児島県奄美大島生まれ。一橋大学大学院経済学研究科 博士課程修了。元・財団法人国民経済研究協会理事長。拓殖大学 国際開発学部教授、帝京平成大学現代ライフ学部教授を経て2012年から現職。主な著書は『農業・先進国型産業論』(日本経済新聞社1982年)、『赤い資本主義・中国』(東洋経済新報社1993年)、『走るアジア送れる日本』(日本評論社2003年)など。
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