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新・農業経営者ルポ

「自分ごと」という他者との農業の楽しみ方

「農醸」と書いて「のうじょう」と読む。日本酒の原料米の種まきから栽培、酒造に至る一連の過程を農家や蔵人とともに学び、味わう農家発の銘柄だ。コンセプトは、生産者や流通業者、加工業者、小売業者、消費者などといった関係を越え、「自分ごと」としてともに価値を作り上げることだ。考案した秋田県大潟村の大潟村松橋ファーム三代目の松橋拓郎(33)はほかにも地元の商店とともに「自分ごと」を広げる試みを始めている。 文・写真/山口亮子・窪田新之助、写真提供/大潟村松橋ファーム

農業の価値を分かち合う

松橋ファームは経営耕地面積が大潟村の平均である17haよりやや大きい22ha。そのうち稲は21ha、残り1haほどの畑とハウスでアスパラガスやタマネギ、ジャガイモ、カボチャなど15種類の野菜を作っている。筆者が2014年に松橋と初めて会ったとき、案内されたのはアスパラガスのハウスだった。ふかふかの土に雑草一つ生えておらず、丁寧に管理しているのが一目で見て取れ、松橋の人柄が表れていると思った。いつも口角が上がっていて、消費者も招いたイベントになると、ホストとしての役割をきっちりこなしつつ、自身もその場を存分に楽しむ。若手としては村内きっての理論派でもある。
村では以前からカボチャとメロンの栽培が定着しているほか、最近はタマネギを増産する動きが出ている。それでも圧倒的に稲作中心の経営ばかり。大潟村松橋ファームのように野菜の生産と販売にまで力を入れる経営は珍しい。その構成員は、松橋と、入植して二代目に当たる父・稔(61)と母の良子(58)の三人。稲作では稔が、野菜作では良子が中心となり、全員で相談して方針を決める。収穫後の扱いについては松橋がほぼ一任されている。
松橋がその役割を遂行するにあたって重きを置いているのは「自分ごと」という概念だ。加工や流通、小売、消費といったサプライチェーンにおける各領域の壁を越え、いかにそれぞれが価値をともに生み出して分かち合えるのか。つまり、「自分ごと」の仕組みづくりだ。

農家と一緒に醸す酒

まずは冒頭で触れた「農家がつくる日本酒プロジェクト」について。松橋とともにこれを形作るのは、近くの五城目町にある酒造会社の福禄寿酒造、地域開発を手がける一般社団法人つむぎや、特約店である県内の10店ほどの酒屋など。
プロジェクトの概要は次の通り。まずはメンバーを募集する。会費は四合瓶や一升瓶の本数、「秋田酒こまち」の農醸のみか、「改良信交」の農醸も含むかで変わり、年間8500~4万4500円(発送先が県外だと送料が500円プラス)。特典についてはこれから述べていく。
舞台は松橋ファームと福禄寿酒造だ。希望するメンバーは、春から秋にかけ、酒造好適米「秋田酒こまち」「改良信交」の種まき、田植え、稲刈りといった栽培にかかる作業に汗を流す。彼ら彼女たちが楽しみにしているのは農作業だけではない。一仕事を終えた後には、時に松橋ファームが作ったコメや野菜を素材にしたおにぎりやおかずを松橋家で味わう。
やがて秋を迎えると、舞台は福禄寿酒造に移る。創業1688年のこの酒蔵でコメは「農醸(のうじょう)」という純米吟醸酒に生まれ変わるのだ。栽培から醸造の過程は、メールで報告されるので、臨場感を持って製造過程を見守ることができる。

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