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新・農業経営者ルポ

「自分ごと」という他者との農業の楽しみ方


フィナーレを飾るのはもちろん酒の完成。メンバーを酒造見学に招き、完成を祝う宴を開く。製造本数は四合瓶換算で年間約4000本。そのうち6割をメンバーに3種類に分けて頒布会形式で届け、残り4割を特約店に一般販売商品として納める。

クチコミで自然増

メンバーには年3回、でき上がった新酒が届く。特別なのは「農醸」の瓶のラベルには希望者の個々の名前が記されること。自分で飲む人もいれば、贈り物にする人もいる。いずれにしても、酒販店で日本酒を買って飲むことだけでは味わえない格別さがある。松橋ら事務局のメンバーにとってうれしいのは、「農醸」を扱う飲食店から「自分たちよりもお客さんが『農醸』について詳しく話していた」といった言葉をもらうとき。まさに「自分ごと」なのだ。
プロジェクトを始めたのは2012年。当初150人だったメンバーは260人にまで増えた。といって広告を打ったわけではない。メディアへの露出の効果もあるけれども、ほぼすべてクチコミである。これもまた松橋の「自分ごと」が反映されている。プロジェクトを自分ごととしてくれる人がどれだけ自然に増えるのかにワクワクした思いでいるのだ。
メンバー限定のFacebookのグループではメールよりも詳細に農醸のでき上がる過程が報告され、メンバー同士の交流もできる。「農醸」が飲める県内と都内の店で交流会や完成披露会も開く。

品質だけでない美味しさを

加工品の単なる原料出荷から、「自分ごと」に発展したのが「コロッケの道」だ。ジャガイモとタマネギをコロッケの原料として納める男鹿市の肉屋グルメストアフクシマと始めた。きっかけは、原料を作る松橋と同店の間で互いの作業を体験し、違う立場だからこそ気づいた発見を消費者に発信しようと考えたこと。松橋自身、ジャガイモを洗ってコロッケにする工程を体験した。コロッケができるまでの過程と、関係者の思いを知ってもらおうと、今では消費者も招いて定植や収穫の体験をし、コロッケを一緒に食べる。
松橋の作った松橋ファームのパンフレットには、「『美味しい』を求めて」という見出しで松橋の思いがつづられている。素材そのものの品質に加え「私たち農家の農業への姿勢を知ってもらい、身近に感じてもらうことも美味しいと感じてもらうために必要なこと」。そしてこう続く。
「世界中から高品質なものが手に入るようになる中で品質はもちろんのことそれ以外の要素でも『美味しい!』と感じていただけるような農業の実現を目指しています」

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