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【特集】
日本の農薬使用に関して言われていることの嘘
- 編集部
- 2020年02月28日
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本当に日本の農産物が農薬まみれか徹底検証する/浅川芳裕
【「世界3位の農薬大国」日本は巧妙な統計操作によるもの】
最近、“国際的に見て日本の農産物は農薬まみれで危険”といった主張がメディアでよく目につく。果たして本当か検証してみた。たとえば、こんな内容だ。
「FAO(国連食糧農業機関)の統計によると、日本の農薬使用量は中国並みで、世界有数の農薬大国。日本の農業は長期間の『鎖国』で、すっかり農業後進国になってしまった」(拓殖大学国際学部教授・竹下正哲「『国産が一番安全だ』と妄信する日本人の大誤解 日本は世界トップレベルの農薬大国」PRESIDENT Online、2020年1月21日)
「あまり知られていないが、日本は世界3位の農薬使用大国なのだ。1位は中国、2位は韓国、3位の日本もじゃんじゃん使う」(堤未果『日本が売られる』幻冬舎新書、2018)
「日本の農産物の安全基準は世界最悪」(食の安全に詳しい内海聡医師)
「日本の耕地面積当たりの農薬使用量は、中国、韓国に次いで世界で第3位だ。(中略)しかし“大本営化”(御用メデイア化)したマスコミはこうした基本的データすら伝えず、『日本の農産物は安心・安全』という情報を垂れ流しているのだ」(日刊SPA!ニュース、2016年2月22日付)
いずれの記事も、FAOの統計をもとに「日本は中国、韓国に次ぐ世界3位の農薬使用量」との数値を引き合いに出している。それを根拠に日本は「農業後進国」だの「安全基準は世界最悪」だの言いたい放題だ。
まず、彼らが根拠とするデータは実在するのか。元ソースからチェックしてみた。
表1と表2をご覧いただきたい。引用した文献『日本が売られる』および『日刊SPA!ニュース』に記載されているグラフだ。たしかに日本は中国、韓国に次ぐ3位となっている。表3がまったく同じ出典から筆者が作成した表である。両者を見比べてほしい。日本の正確な順位は3位ではなく、11位である(最新統計の2016年版では16位となっている)。
一体どういうことか。多くの国々を除外し、農薬が危ないイメージのある中国や韓国を併記することで、日本を「世界3位の農薬大国」に仕立てあげる巧妙な統計操作を行なっているのだ。
これは完全に虚偽であり、罪深い。もっともらしい国際比較で日本の農家があたかも農薬を滅茶苦茶に使い、国産農産物が農薬漬けのようなデマを蔓延させているからだ。
それにしても、異なる2人の作者(堤氏と内海氏)がデマを流すために、たまたままったく同じ統計操作を施すことがあり得るだろうか(大学教授の竹下氏は中国並みというだけで、表さえ示していない)。普通は考えられない。
実は、同じネタ元から単純にコピペしているだけなのだ。なぜそう確信をもって言えるのかは簡単だ。表1の注釈を見ればわかる。2人とも統計にアクセスした日として、まったく同じ2013年8月4日と記しているからだ。そんな偶然の一致などあり得ない。
そこで、デマの元ネタがないかどうか探してみた。書籍の全文検索サービス「Googleブックス」で調べたところ、「田中裕司氏著『希望のイチゴ』扶桑社、2016」がヒットした。
その中の第3章に「日本は世界第3位の“農薬大国”」という項目があり、堤氏の『日本が売られる』とまったく同じグラフ(表4)が登場する。統計処理法、表題、脚注、そしてその誤字(正しくはFAOSTATをFAOSTALと誤表記)まで一式まったく同じだ。つまり、堤氏のグラフは『希望のイチゴ』からの丸パクリなのだ。
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