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農業は先進国型産業になった!

日本ワイン比較優位産業論 現地ルポ 第14回 本物のワイナリーをめざす厳格な産地表示主義者 (株)オチガビワイナリー(北海道余市町)

日本ワインの価格は高い。ワイン哲学が製品差別化の要因になっている。オチガビワイナリーは超高級設備で高コスト・高価格設定になっているが、それが可能なのも独特のワイン哲学による製品差別化であろう。ワイン市場の特殊性はいつまでも続くのであろうか。

【1】北海道を訪ねて――余市でワイン、古平でニシン漁、上川でコメ

1月下旬、冬の北海道を旅した。小樽の先、余市のワイナリー調査を皮切りに、積丹半島の古平でニシン漁の栄枯盛衰を見た(余市福原漁場は夏に訪問済み)。昭和の初めまで大量に獲れ肥料にまで回されていたニシンが、昭和30年の回帰(群来)を最後に消えた。資源枯渇の影響だ。ニシンブームが去り、地域は大変動。その後はスケソウダラ、水産加工技術が残っている。
翌日、コメどころ上川・空知地方を訪ねた。「やっかい道米」と揶揄(やゆ)され、不味いコメの代表と言われた道産米が、いまでは「ゆめぴりか」「ななつぼし」「きらら397」などの特A良質米に変わり、上川空知はブランド米産地に生まれ変わった。品種改良の技術進歩と地球温暖化の影響だ。
自然界の変化が、産業に大きな影響を与えている。技術は自然条件に代替するが、資源枯渇や気候変動の影響は技術進歩より大きいようだ。
ワイナリー調査では経営者の話を聞き、ニシン漁は古老たちの話を聞き、上川空知では研究者たちの話を聞きながら飲んだ。普通の観光旅行より、深く濃密に地域に触れることができた。「風土」は産業に溶け込んでいるわけだから、産業調査で地方を旅するのは楽しみが増す。今回の旅は、豊かな研究人生を与えてくれた神々に感謝、感謝の1週間であった。

■余市に来る前――新潟カーブドッチのこと
余市駅から車で5分、日本標準を超えた豪華なワイナリー、(株)Occi Gabi Wineryがある(落雅美社長、落希一郎専務取締役)。2013年オープン。エコノミストの目からすると立派すぎ、並みの経営とは思えない雰囲気のワイナリーだ。
余市に来る前、落希一郎氏は新潟市にある角田浜(旧西蒲原郡巻町)という日本海に面した砂丘地でワイナリーを営んでいた(「カーブドッチ」1992年設立)。7haのブドウ畑(敷地面積10ha)、欧州系のワイン用ブドウ全14種類を植え、年間約7万本のワインを生産。
広いワイナリーには、ブドウ畑だけではなく、ワイン蔵の建物を中心にレストラン4軒、パン工房、アイスクリーム工房、さらに、温泉を利用した宿泊施設がある。バラの花咲く西洋庭園もある。ここを訪れる人は年間18万人と言われる。20年間で、落氏は一大リゾート基地を創造したのである。
「日本に本物のワイナリーを作る」「欧州系のブドウだけを、自家栽培、自家醸造してワインを造る」という欧州留学時からの夢、それを実現したのがカーブドッチだ。ワイン生産の6割(4万本)は、落ファンから成る会員組織「ヴィノクラブ」の会員が買い上げてくれた。
カーブドッチの周辺には、「フェルミエ」など4つのワイナリーが展開している。落氏は地域の発展を見据え、2003年、後継者育成を目的とした「ワイナリー経営塾」を開講した(研修期間1年)。この経営塾で修業した卒業生がワイナリーを立ち上げたのだ。日本海に広がる海岸地帯に、小規模の個性あるワイナリーが5軒集い、産地形成が進みつつある。新潟ワインコーストと称している。

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