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【農業は先進国型産業になった!】
日本ワイン比較優位産業論 現地ルポ 第14回 本物のワイナリーをめざす厳格な産地表示主義者 (株)オチガビワイナリー(北海道余市町)
- 評論家 叶芳和
- 第34回 2020年02月28日
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このように、オチガビワイナリーの施設は、本場の伝統を受け継ぐ、本物のワインを造ろうとする精神が溢れている。仮に経営がどう変わろろうと、将来、ここは余市町の「遺産」として残るのではないか。
■投資8億円、ワイン生産4.7万本
落氏が目指すのは「日本一素晴らしいワイナリー」である。しかし、投資額は8億円に上る。ワイン生産年間4.7万本、ワイン売上高7700万円、レストラン売上2500万円、売上高合計約1億円。従業員13人。エコノミストの関心は、立派な施設にではなく、経営に向かう。
所有地4万2000坪(購入費4200万円)、ブドウ作付6.3ha、ブドウ生産量20t(10a当たり単収約300kg。成園になればもっと増える)。土地は坪1000円で購入したが、造成費プラス施肥で、現在は坪3000円になった。
ブドウ使用量は、自社畑から20t、契約農家2軒から27t、合計47tである。これでワイン生産4.7万本。購入ブドウの価格は1kg当たり400円。地域相場の2倍の高値を付けた。「落が来てから価格破壊が起きた。よそ者のくせにルール守らない」と批判されているという(注:筆者の余市調査では、日本ワインブームで醸造用ブドウ需要が急増し品不足のため、地域相場はピノ・ノワールの場合、10年前の200円から400円に上昇した)。
ワインの出荷先は、会員向け直送、ふるさと納税返礼品であり、酒屋には売っていない。後述するように、オチガビのワイン価格は高値だ。落氏「原価が高いからだ」。
訪問客は年間2万人である(19年)。内訳は会員(1万200人)が年1.5回、プラス非会員である。8800円で会員になれる(8年間、ワイン1本贈る)。自社畑ブドウで醸造したワインを「この価格でどうか」と高価格を提示したら、会員の役員たちがOKしたという。
ワイナリーにとって、会員制や訪問客はありがたい存在である。オチガビの豪華、超高級仕様の施設、高価なワイン価格は、会員制に支えられている。落氏「全国に、自分の信者がいる」。しかし、それでもワイン生産規模4.7万本で8億円の投資額の償却は厳しいのではないか。
【3】落希一郎氏のワイン哲学――ドイツを理想としたワインとワイナリー
取材はテイスティングから始まった。落氏自慢のドイツ品種で、「アコロン2017」は8800円、「ムスカテラー2018」は4400円。価格はかなり高い。温暖化に備えて開発された品種のようだ。
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叶芳和 カノウヨシカズ
評論家
1943年、鹿児島県奄美大島生まれ。一橋大学大学院経済学研究科 博士課程修了。元・財団法人国民経済研究協会理事長。拓殖大学 国際開発学部教授、帝京平成大学現代ライフ学部教授を経て2012年から現職。主な著書は『農業・先進国型産業論』(日本経済新聞社1982年)、『赤い資本主義・中国』(東洋経済新報社1993年)、『走るアジア送れる日本』(日本評論社2003年)など。
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