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【農業は先進国型産業になった!】
日本ワイン比較優位産業論 現地ルポ 第14回 本物のワイナリーをめざす厳格な産地表示主義者 (株)オチガビワイナリー(北海道余市町)
- 評論家 叶芳和
- 第34回 2020年02月28日
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落希一郎氏は、東京外語大中退後、ドイツに留学し、「国立ワイン学校」(正しくは「国立ワイン栽培醸造研究教育機関」。在シュツットガルト)を卒業した(1976年)。さらに、オーストリアの国立醸造所でも研修を受けた。帰国後、北海道ワイン(叔父の会社)でワイン造りに従事、88年から長野県サンクゼールワイナリーでワイナリー立ち上げに携わり、92年新潟カーブドッチ設立、2012年オチガビワイナリーを設立した。
1977年1月、40品種、1万6000本の欧州系ワイン用ブドウ品種を日本に持ち帰り、農水省の検疫のあと試験栽培したのであるが、良いと思われる品種はわずか3品種だった。それを浦臼町(叔父の北海道ワイン)と北海道庁中央農試(余市分場)に寄贈した。浦臼町では畑の土壌づくりから始め苦労したようである。寒冷の北海道でブドウなんかできっこない、失敗するに決まっていると冷ややかな目が多かったが、2年後に実ったブドウは品質の良さが驚きをもって認められた。長野に転身したのはその後である。
このような経歴、特にドイツ留学の経験が、落氏の独特なワイン哲学をつくっている。
■落氏が言う本物論と日本の現実
日本で流通しているワインは3種類ある。国産ブドウ100%で造る「日本ワイン」(2018年10月末から制度化)、濃縮還元した輸入果汁を原料とした「国産ワイン」、それから「輸入ワイン」である。輸入ワインが全体の68%と大半を占め、国産ワインが28%、国産ブドウ100%の日本ワインは4%に過ぎない。
国内製造ワイン(日本ワイン+国産ワイン)は約300のワイナリーがあるが、生産規模300(720ミリリットル換算41万本)未満の小規模ワイナリーがほとんど(全体の約9割)で、彼らは国産ブドウ100%の日本ワインを製造している(国税庁酒税課調査)。メルシャン、サントリーなど大手は日本ワインも製造しているが、多くは輸入果汁を原料とした国産ワインを大量生産している。なお、日本ワインの場合、ブドウの供給は自社畑での自家栽培もあるが、購入ブドウ(他地域からのものを含む)もある。
落氏は本物のワイン造りを目指している。落氏の言う「本物」とは、欧州系のワイン専用ブドウを、自家栽培、自家醸造したワインである。さらに、顧客がワイナリーに来て、美しい景観を眺めたり、食事をして楽しい時間を過ごす、生産者と消費者がしっかりとつながっているのが本物のワイナリーである。これが落氏がドイツで見たワイナリーのスタンダードであり、落氏はそれを理想としている。
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叶芳和 カノウヨシカズ
評論家
1943年、鹿児島県奄美大島生まれ。一橋大学大学院経済学研究科 博士課程修了。元・財団法人国民経済研究協会理事長。拓殖大学 国際開発学部教授、帝京平成大学現代ライフ学部教授を経て2012年から現職。主な著書は『農業・先進国型産業論』(日本経済新聞社1982年)、『赤い資本主義・中国』(東洋経済新報社1993年)、『走るアジア送れる日本』(日本評論社2003年)など。
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