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【農業は先進国型産業になった!】
日本ワイン比較優位産業論 現地ルポ 第14回 本物のワイナリーをめざす厳格な産地表示主義者 (株)オチガビワイナリー(北海道余市町)
- 評論家 叶芳和
- 第34回 2020年02月28日
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日本のほとんどのワイナリーに対して、落氏は「インチキ」と批判している。輸入果汁を原料に使っている「国産ワイン」に対してだけでなく、「日本ワイン」に対してもインチキと批判している。自社畑が少ないため、他産地の生産者と契約栽培してブドウを入手しワイン造りをすると「インチキ」呼ばわりされる(筆者注:もちろん、これは悪いことではない。また違法でもない)。
落氏は原産地呼称制度をヨーロッパのように厳格に理解し、それを理想としているからであるが、日本の18年10月30日施行の現行制度では、違法ではない(偽って産地名を冠しない限り)。仮に、他産地(国内)のブドウを使って品質が悪くなるのであれば、それは消費者の支持を失い、そのワイナリーは淘汰されていくであろう。契約栽培でブドウを入手するかどうかは経営の問題と思われる。
また、「日本ワイン」を造っているワイナリーが輸入原料を使っているという批判も強い。しかし、事実誤認もあるのではないかと思う(筆者が取材を通して知りえた事実と違う)。筆者は落氏の実績を高く評価している。落氏の哲学と理想論はいいが、同業他社への批判には、自分の理想を主張するあまり、勇み足もあるように思える(注)。
注:例えば、栃木県の「ココファームワイナリー」は06年まではカリフォルニアにある自社農園で収穫したブドウを輸入し一部使用していたが、07年以降は輸入果汁はない(「輸入ワイン」を取り扱っているが3900万円、ワイン売上全体の約5%、自社の日本ワインの製造とは全く別である)。また、北海道や山形の生産者と契約栽培しているが、ピノ・ノワールは適地の北海道で、シャルドネは適地の山形で栽培してもらっているわけで、“適地適品種”の方針である。良質のブドウを確保するための経営判断であり、悪いことではない。
【4】ワイン産業は哲学者がいっぱい――ワイン哲学が製品差別化要因
オチガビワイナリーのブドウ品種はすべて欧州系のワイン専用品種で、ワインは20銘柄ある。主力商品は、白がシャルドネ(黒ラベル)4400円、ゲヴェルツトラミナー(黒)4400円、赤がピノ・ノワール(黒)6600円、アコロン(黒)8800円である。全銘柄については次ページ表1参照。平均5000円という(注)。
かなりの高価格ワインである。この点について質問すると、落氏「原価が高いからです」。確かに、施設の超高級仕様等を見る限り、普通のワイナリーに比べコストは高いであろう。しかし、価格は市場で決まるものであり、コストで決まるわけではない。なぜ、このような高価格が実現できるのであろうか。
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叶芳和 カノウヨシカズ
評論家
1943年、鹿児島県奄美大島生まれ。一橋大学大学院経済学研究科 博士課程修了。元・財団法人国民経済研究協会理事長。拓殖大学 国際開発学部教授、帝京平成大学現代ライフ学部教授を経て2012年から現職。主な著書は『農業・先進国型産業論』(日本経済新聞社1982年)、『赤い資本主義・中国』(東洋経済新報社1993年)、『走るアジア送れる日本』(日本評論社2003年)など。
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