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東京オリンピックを控えて危機管理能力について質問されているのに、安倍首相はIOCのバッハ会長のことを持ち出してきた。この日の会見の最大のハイライトは、この部分だった。
これは25日の英BBCニュースが伝えた東京オリンピック開催是非に触れたIOC委員のコメントに日本政府の正式な見解を示してきたものだった。そのニュースは「IOC委員 東京五輪の準備『いつもどおり』開催是非の判断は5月下旬」。発言の主は、カナダ人で1978年からIOC委員を務める最古参のディック・パウンド委員(77)だった。
「海外渡航について、そして渡航を避けるべき場所について、判断はWHOがすることになる。最終的には、日本政府が介入するか、あるいは諸外国の政府が『うちの国民をそこに渡航させたくない』と言い出すかどうか、それ次第になるかもしれない」
海外渡航とは、東京オリンピックに参加してくれる海外のアスリートのこと。パウンド委員は、そのフレーズを使って開催是非の判断についての見解を示してきたのだ。安倍首相が、バッハ会長の発言を引き合いに出したのは、パウンド発言を一蹴するつもりだったが、バッハ会長のその後の発言を追うと、パウンド氏が示した開催是非の判断をWHOに委ねるという部分については否定していない。
場当たり的危機管理対応の舞台裏
政府の危機管理能力のなさは国会でも厳しく批判された。野党が追及したのは、2月26日の自粛要請を決めたメッセージ。25日の政府基本方針を覆すかのように、自粛の呼びかけから要請に一段とステップ・アップしてきたからだ。27日の一斉休校要請も強い批判を浴びた。この措置は、厚生労働省にも文部科学省にも相談せず安倍首相が専門家の意見を取り入れて独断で決めたと、2月29日付け西日本新聞は解説している。
「(一斉休校要請について)唐突に見える意思決定の舞台裏を探ると、官邸が一丸となっていた従来の安倍政権の危機管理対応と様子を異にし、首相と最側近の官邸官僚だけで判断した経緯が浮かび上がってきた」
28日の衆院予算委員会で休校要請の経緯を問われた安倍首相は、「政府部内で熟議を重ねて決定したことを強調した」(同紙)。だが、事態は真逆。複数の関係者の話をまとめた西日本新聞の解説はこうだ。
「総合すると、政府が新型コロナウイルス対応で学校の一斉休校案の検討を始めたのは2月中旬だった。感染経路がはっきりしない『市中感染』とみられる患者が各地で確認され始めたため、通学中の感染リスクから子どもを守り、交通機関の混雑も緩和する企図があった。首相と気脈を通じる萩生田光一文部科学相らが発案し、省内でシミュレーションしたが、患者の多い地域に限定し、期間も2週間程度と短いものだった」
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土門剛 ドモンタケシ
1947年大阪市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科中退。農業や農協問題について規制緩和と国際化の視点からの論文を多数執筆している。主な著書に、『農協が倒産する日』(東洋経済新報社)、『農協大破産』(東洋経済新報社)、『よい農協―“自由化後”に生き残る戦略』(日本経済新聞社)、『コメと農協―「農業ビッグバン」が始まった』(日本経済新聞社)、『コメ開放決断の日―徹底検証 食管・農協・新政策』(日本経済新聞社)、『穀物メジャー』(共著/家の光協会)、『東京をどうする、日本をどうする』(通産省八幡和男氏と共著/講談社)、『新食糧法で日本のお米はこう変わる』(東洋経済新報社)などがある。大阪府米穀小売商業組合、「明日の米穀店を考える研究会」各委員を歴任。会員制のFAX情報誌も発行している。
土門辛聞
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