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ここで官僚というのは事務系ではなく、通称技官のこと。厚労省では、医師免許などを有する技術系行政官のことだ。利権とは、製薬メーカーなどへの天下りのことだ。組織のトップである大臣や事務次官などは、技術のことについては蚊帳の外に置かれることがしばしばだ。
それを象徴するようなエピソードが3月2日午前の参院予算委員会であった。加藤厚労相は、立憲民主党の福山哲郎議員から「PCR検査を必要とした場合の検査人数がどれぐらいになるか」と聞かれても、「医師会に、そこの数字、どういう具体例があるか、件数も含めてお願いしている」としか答えられなかった。ちなみに国内受託検査事業の大手であるエスアールエルは、毎日20万件以上の検査を全国の医療機関から受託している(週刊文春)。
これだけの処理能力があれば、豪華クルーザー「ダイヤモンド・プリンセス号」の乗客・乗員約3700人のPCR検査も十分に可能だったはずだ。結局、その参院予算委員会で加藤厚労相は、その公表のタイミングから、民間検査機関によるPCR検査について「全力を傾ける」と回答することになった。
同日夕方に開かれた国の専門家会議で実に奇妙な動きがあった。メンバーの1人、北海道大学の西浦博教授が記者会見し、「北海道全域で先月25日の時点で感染した人は、およそ940人に上る可能性がある」(NHKニュース)と明らかにしてきた。同日現在の確認感染者数は77人。民間検査機関がPCR検査を実施すれば、感染者数が飛躍的に増えることになるので、その時に批判を受けないように先手を打ってきたという見方はどうか。
3月2日、安倍首相が頭を抱えるような外電が飛び込んできた。WHOのテドロス事務局長が、スイス・ジュネーブの記者会見で、新型コロナウイルスについて、中国以外に日本、韓国、イタリア、イランの4カ国が「最大の懸念だ」との認識を示したことだ。そして条件付きで「パンデミック(世界的流行)」の宣言も「ためらわない」と明言したという。記者会見の過去24時間に報告された新規感染者数が中国以外で中国の約9倍に上っていたからだ。
WHOがパンデミック宣言を出すような事態にでもなれば、東京オリンピックの予定通りの開催に暗雲が立ちこめる。いまの感染拡大の勢いからすると、パウンド委員が示した「5月下旬」まで、中国や日本など5カ国が新型コロナウイルスの清浄国に転じる可能性はかなりハードルが高いように思えるからだ。
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土門剛 ドモンタケシ
1947年大阪市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科中退。農業や農協問題について規制緩和と国際化の視点からの論文を多数執筆している。主な著書に、『農協が倒産する日』(東洋経済新報社)、『農協大破産』(東洋経済新報社)、『よい農協―“自由化後”に生き残る戦略』(日本経済新聞社)、『コメと農協―「農業ビッグバン」が始まった』(日本経済新聞社)、『コメ開放決断の日―徹底検証 食管・農協・新政策』(日本経済新聞社)、『穀物メジャー』(共著/家の光協会)、『東京をどうする、日本をどうする』(通産省八幡和男氏と共著/講談社)、『新食糧法で日本のお米はこう変わる』(東洋経済新報社)などがある。大阪府米穀小売商業組合、「明日の米穀店を考える研究会」各委員を歴任。会員制のFAX情報誌も発行している。
土門辛聞
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