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イベントレポート

リスクコミュニケーションで不安に対処する/『農業経営者』2020年新年会 

「農業と食の不安にどのように対処すべきか。答えはリスクコミュニケーションを実行することだ。相手が信じている誤解を解消するリスコミは戦いだ。戦略と戦術と訓練がないと失敗する。実践を通して教訓を得ることが大切だ」  唐木英明氏は農学博士で獣医師でもあり、食品安全の第一人者としてBSE問題などに対処してきた人物である。
今回、自身のリスクコミュニケーションの経験を踏まえ講演した。

不安の程度を知る――知識と行動のギャップ

リスクコミュニケーション(以下、リスコミ)とは対話である。対話の成立のためには、まず相手の不安の程度を知ることから始めなければならない。
食品安全委員会のアンケート調査(2018年)では、食品の添加物が「とても不安」と答えた人は44%、残留農薬が「とても不安」と答えた人は49%に上る。一方、消費者庁の調査では、常に無添加食品を買うと答えた人は約1割、無農薬野菜を買うと答えた人は6%にとどまる。つまりアンケート調査と消費行動にギャップがある。人間の社会行動は、多くの人の意見と違うことを言ったら批判されるのではないかという心理に影響される。そのため、実際の買い物のときには怖いとは思わないにもかかわらず、アンケート用紙で「怖いか」と聞かれると「怖い」と答える人が多い。このような知識レベルの不安が消費レベルに進む前に対処しておくのがリスコミの目的である。

不安の原因を知る(1)――社会の変化

現在は不安の時代とも言われる。不安が大きくなった原因には、社会の変化と人間の本能の2つがある。
産業革命以後の科学技術の進歩によってリスクが変化した。古くからある食中毒菌、腐敗、異物などのリスクは五感で認識できる。しかし、工業社会で生まれた化学物質、放射性物質、遺伝子組換え、BSEのプリオンなど新しいリスクは五感で認識できない。これらは、専門家が科学技術を使って初めてわかるものである。たとえそのリスクが厳しく管理され被害者が少なくとも、見えないものは不安だ。こうして人々の間に科学者や政府はリスクを正しく伝えているのかという不安が広がっていった。
また、インターネットの普及とともにメディアも変化した。かつては新聞やテレビがフィルター機能を持ち、情報を選別して重要なものだけを伝えていた。現在はすべての人がSNSなどを使って自由に情報を発信し、それを制限するフィルターはない。情報が民主化された反面、情報過多で処理困難に陥ってしまった人々は同調する情報だけを選択し、インターネット検索は同調する情報だけ提供するという状況が生まれた。発信者の匿名性によってフェイクニュースや陰謀論が増え、利己主義や排他主義が強まり、自分が正義だという風潮も出てきている。

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