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イベントレポート

リスクコミュニケーションで不安に対処する/『農業経営者』2020年新年会 


さらに、司法、立法、行政の対立と混乱が生まれた。たとえば、文科省の学校給食衛生管理基準では、「有害もしくは不必要な食品添加物は使用しない」としているが、厚労省では認可した添加物は100%安全だとしている。また立法は化学肥料、農薬、遺伝子組換えを原則として使用しない有機農業推進法を定めたが、農水省は3つとも許可している。こうして国民は何を信じたらよいかわからなくなったことが不安を大きくしている。

不安の原因を知る(2)――変化に対応できない本能

科学技術が進歩し社会が変わっても、人間はそのような急速な変化に対応できない。狩猟社会、農耕社会、工業社会、情報社会、そしてSociety
5.0と呼ばれる新たな社会が始まっているが、「見えないリスク」への不安が示すように人間の本能は工業社会にも対応できていない。
変わらないのは人間の利己主義だ。利己主義は動物的な生存本能である。一方、人間社会では利己主義を抑えないと生きられない。しかし、かつての日本の地域社会のような利己主義を抑える力は現代では薄れてきている。世界の流れを見ると、かつて排他的部族社会で多様性を認めなかった時代から、2つの大戦を経て、平和主義やグローバリズムが広まり多様性を認める時代になった。生物学的な観点で言えば、多様性を認める時代は人間の本能に反している。いま再び他者や多様性を認めない本能の時代に戻りつつある。
また、人間は少ない努力で直感的に結論を求めようとする。これをヒューリスティックと呼ぶ。危険から逃れるための動物の本能である。恐怖も不安も危険なものから逃げるための感情だ。ただし恐怖は対象がわかるもの、不安は対象がわからないものに対する感情だ。わからないものは拒否し不安になるのも人間の本能なのである。わからないものは信頼する人に依存する本能がある。人間が進化の過程で身に付けたものだ。知識と経験があるリーダーに従うことで危険から逃れてきたからである。現在、信頼する人というのは、マスメディアからSNSのスーパースプレッダーに移っている。
さらに、危機回避バイアスという本能も不安を増す要因だ。自分の命を守るために「危険」や「不安」という情報は聞き逃さないが、「安全」という情報には注意を払わない。この危機回避バイアスにより情報収集にアンバランスが生じる。情報発信も危険を伝える情報は売れるので多いが、安全を伝える情報は売れないので少なくなる。

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