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【新・農業経営者ルポ】
発酵でコメに付加価値と新たな市場を
- (株)ファーメンステーション 代表取締役 酒井里奈
- 第189回 2020年04月27日
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コメを化粧品の原料に
「普通のエタノールは鼻にツンと来ますよね。こんなに瓶に鼻をつけて匂いをかげないじゃないですか」
コメから抽出したエタノールの入った小瓶を片手に酒井が話す。手渡されたエタノールは確かに消毒用や掃除用のエタノールと違い、鼻につくアルコール臭がない。少し日本酒にも似たコメのまろやかな香りがする。このエタノール、化粧品やアロマオイルの原料になる。コメのまったく新しい需要として注目を集めているのだ。
奥州市の旧胆沢町でJAS有機のコメを作り、それを原料に市内のこじんまりとした醸造施設でオーガニックのエタノールを精製する。コメ由来のエタノールは100ミリリットルで2750円(注:ファーメンステーションのオンラインショップでの販売価格)。燃料用エタノールだと1リットル数十円だというから、大変な差だ。百貨店やオーガニックコスメの専門店などで販売する。販路を海外まで広げようと、米国農務省の定めるオーガニック認証を取得した。
コメからエタノールを精製して燃料にする。それが既定路線だったプロジェクトで、酒井が中心となって大きな方針転換を図った。製造費が決して安くないコメ由来のエタノールを燃料にしたのでは採算が合わない。では高く売れる用途は何か。
考えたのが化粧品やアロマオイルといった雑貨の原料にすることだった。化粧品でも、原料のトレーサビリティが大事になるのではと思ったのだ。香りづけや有効成分として使う柑橘や茶葉などの原料は、産地や栽培方法まで明示する商品もある。しかし、触媒となるエタノールはトレースできる情報がないのが常識だった。
「我々では到底思いつかない、彼女ならではの視点」
胆沢でプロジェクトに関わる農家はこう口をそろえる。
「田んぼから付加価値を」
酒井はこう考え続けてきた。
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酒井里奈 サカイリナ
(株)ファーメンステーション
代表取締役
東京都杉並区生まれ。国際基督教大学(ICU)卒業。富士銀行(現・みずほ銀行)、ドイツ証券などに勤務。発酵技術に興味を持ち、東京農業大学応用生物科学部醸造科学科に入学、地産地消型バイオエタノール製造、未利用資源の有効活用技術の開発などを研究し、2009年3月卒業。同年、(株)ファーメンステーション設立。ファーメンステーション(Fermenstation)は、発酵を意味する「fermentation」と、駅を意味する「station」を組み合わせた造語になる。
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