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【農業は先進国型産業になった!】
日本ワイン比較優位産業論 現地ルポ 第16回 水田地帯に大規模なブドウ畑 消費者志向で生産性を追求(株)アルプス(長野県塩尻市)
- 評論家 叶芳和
- 第36回 2020年04月27日
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注:試算すると、メルローは1ha(ブドウ8t)でワイン8000本、販売収入1600万円、ブラッククイーンは1ha(単収25t)で2万5000本、販売収入3750万円である。メルローで3700万円稼ぐには単価を4600円以上に設定しないとならないが、そんな高額では8000本売れない。つまり、ブラッククイーンに比べ、メルローはビジネス上不利である。
■最新テクノロジーでコストダウン
工場も、「値頃感のある」ワイン造りが感じられる。昨年5月、ボトリングラインを一新し、ボトリング能力1時間当たり7500本の設備を導入した。1分で1200本を超えるスピードだ。かなりの高生産性だ。従来の設備では6000本だったので、125%能力アップだ。これがコストダウンへの回答だ。スパークリングワインのボトリングも1時間3500本の高速である。
工場は、食品安全管理システムFSSC22000の認証を取得し(12年)、検査や品質管理もしっかりしている。入口に検査室がある。スタッフ12名で、受け入れたワイン原料の分析をしている。スイス製の成分分析機器「ワインスキャン」は1分間で26項目の検査結果を出す。従来は個別に行なっていたものである。これによって、高精度で客観的な情報に基づいて判断できるので、安心・安全を含めて高い品質管理を目指せる。
従業員提案制度では、年間400件の改善提案がある(各課で月7件以上)。この改善活動がワインの品質・安全とコストダウンに貢献しているようだ。
4 消費者のニーズに応えて品ぞろえ―輸入ワインと輸入果汁ワイン
表1に示したように、アルプスワインの商品レンジは広い。国産ブドウ100%の日本ワインだけではなく、輸入濃縮果汁を原料にした国産カジュアルワイン、さらに海外ワイナリーと提携した輸入ワインも揃えている。350万本のうち、220万本は輸入原料ワインである。これも、消費者のニーズに応えようとする姿勢である。
日本のワイン市場の実態は、輸入ワイン67%、国内製造ワイン33%(内訳:輸入濃縮果汁ワイン27%、日本ワイン6%)である。圧倒的に輸入ワインが多い。国内で製造しているワインも、輸入濃縮果汁に依存するワインが8割、純国産の日本ワインは2割に過ぎない(2018年)。
この実態がある以上、矢ヶ崎社長「日本ワインは伸びているが原料不足。またコストも高すぎる。国内流通の95%分も考えるべきだ。5%(つまり日本ワイン)だけ問題にするのはおかしい」という言い分がよく分かる。
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叶芳和 カノウヨシカズ
評論家
1943年、鹿児島県奄美大島生まれ。一橋大学大学院経済学研究科 博士課程修了。元・財団法人国民経済研究協会理事長。拓殖大学 国際開発学部教授、帝京平成大学現代ライフ学部教授を経て2012年から現職。主な著書は『農業・先進国型産業論』(日本経済新聞社1982年)、『赤い資本主義・中国』(東洋経済新報社1993年)、『走るアジア送れる日本』(日本評論社2003年)など。
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