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新・農業経営者ルポ

多様性を重視した胡蝶蘭の経営


いまも生産現場に立つ森田だが、経営は長男の健一郎へと引き継いでおり、この日は現社長にハウスを案内してもらった。

自分の美学で作った花を世に問いたい

「花の本質に表れた心で、感謝を贈る」
取材を始めるなり、健一郎が語った言葉である。自分の代になって打ち立てた経営理念だそうだ。事務所の壁に掲げられた額にこの言葉の続きが書いてある。
「花の本質とはつまり、生命ゆえの多様性。人から人への感謝もそれぞれ。お客様の心を表す花を育てご提案することが、我々の使命です。いつの日もその本質に向き合い、農家だから育める感謝を、トップランナーの誇りを胸に届け続けます。」
この言葉を象徴するのはハウスに並ぶ花そのものである。色については王道の白に加えてピンク色や黄色、緑色のほか中心部分だけが赤くなった「赤リップ」、大きさでは大輪に加えてそれより一回り小さいミディなどをそろえている。生産量に占める割合はかつて白色の大輪が大半を占めていたが、いまでは45%にまで減らした。一方でそのほかの種類を増やしてきた。
少量多種類は胡蝶蘭の経営では珍しい。この業界に詳しい国内外でハウス関連の資材の販売や農業コンサルタントをしている中村商事(埼玉県春日部市)の中村淑浩社長によると、「国内の需要のうち75%は白の大輪」とのこと。しかも、農家の多くはそれ一本だそうである。その理由について健一郎は次のように説明する。
「多品種を栽培するのは非常に手間と技術が要る。また、市場出荷だと背が高くて大きく見える白が一番値段が高い傾向になるため、生産と販売の両面から白のみを生産することが一番効率が良いから」
一方、森田洋蘭園は市場に出荷するだけではなく、生花店に卸すほか、企業や個人からの注文や小売にも対応している。客層は幅広く、それだけの需要に応えるために商品のアイテムを増やしてきた。
業界を見渡すと、胡蝶蘭もまた品種改良は手間がかかるので、いまは海外の品種を咲かせるだけの経営がほとんど。対して森田洋蘭園が栽培しているのは6割が自社で品種改良したもので、多様な種類をそろえてきた。健一郎はその理由についてこう語る。
「花の本質は命ゆえの多様性にあると、私は思うから。効率の良い大きい白も良いですが、多彩な色、小ささ、香り、花保ち、枝ぶり、頑健さ、花には色々な魅力があるので、ぜひ知ってほしい。効率の面から排除されがちな部分にこそ花の本質があると思う」

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