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新・農業経営者ルポ

多様性を重視した胡蝶蘭の経営


その結果は10年前ごろから少しずつ出るようになった。カジュアルギフトを含めたホームユースが伸び、多彩な色合いやコンパクトな輸送性を考慮した品種が重要になってきているという。品種改良で目下試しているのは、白の花弁に紫のスプラッシュやリップが極端に黄色い白大輪など。健一郎は「当園のグリーンの大輪やイエローの大輪は現在世界中の市場から注文を受けている。自分の感性を信じて育種することが大事だ」と語る。
ハウスに関して特筆すべきことは多いものの、まずは花が作られてから客に届くまでの流れをつかんでもらいたいので、ここでは「撮影スタジオ」だけを取り上げよう。
ハウスの片隅のベンチ付近には、撮影時に背景として使う巻き取り式のバックペーパーや影を作らないために光を拡散させるフィルムのカーテンを用意している。ここに鉢植えの胡蝶蘭を置き、「レンズ込みで40万円した」というカメラで撮影する。画像データは加工したうえで自社ホームページや生花店の商品カタログの素材にする。

受発注システムに発送前の商品を画像でアップ

続いて宅配向けのラッピングや受注の仕組みを紹介したい。筆者が森田洋蘭園を初めて取材で訪れたのは2019年9月中旬で、発送の作業で非常に忙しい時期だった。というのも世間で転勤や人事異動が多いことから、贈答用の需要が高まる10月が間近に迫っていたのだ。知らなかったとはいえ、申し訳ないことをしたと反省している。
ハウスの並びにある事務所を兼ねた作業場では、大勢の女性従業員が木目調の立て札を付けることやラッピング、梱包などに忙しそうにしていた。宅配用はすべて自社で最終商品に仕上げる。そんな仕事をしている人たちばかりの中、ある一人に目が留まった。彼女がいる一角だけがまるで撮影スタジオのようだ。背景スタンドがあり、その前には商品としてそのまま出荷できそうな鉢植えの胡蝶蘭が据えられている。女性はスマートフォンを取り出すと、それを撮影し始めた。
一体、何をしているのか。彼女にスマートフォンの画面を見せてもらうと、宅配専用の受発注システムが映っている。注文ごとに伝票の情報を一元的に管理するほか、商品に仕上げた状態の写真をアップし、発注元に送信する機能を備えている。注文通りに仕上がっているかを画像で確認してもらうことで、送り先に届いた段階で問題が生じないようにしているのだ。顧客が商品の状態を確認し終えて初めて、梱包して発送する。

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