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いずれにせよ、汚泥肥料の施用がリン酸過剰を招かないように注意すべきだ。前記のように土壌のリン酸過剰は、アブラナ科野菜根こぶ病やフザリウム病害などの発病を助長する。わかりやすくいえば、リン酸過剰は土の免疫力を弱め、さらには貴重なリン酸資源の浪費につながる。
【おわりに】
下水汚泥を原料とする肥料がわが国で使われるようになって90年となるにもかかわらず、農業資材として広く農家に普及しない原因には、一般的な肥料の販売ルートから外れているため利用に関する技術的なサポートが得られにくいこと、カドミウムなどの有害元素を含む資材との固定概念がつきまとうこと、それにもうひとつが肥料取締法で肥料名としてあまりにもイメージが悪い「汚泥」が使われていることである。下水道事業を管轄する国土交通省あるいはその関連団体では汚泥肥料を「下水汚泥由来肥料」あるいは、「汚泥」を使わずに「下水道由来肥料」と呼ぶことが多い。
本記事を執筆するに当たり筆者も迷ったが、肥料取締法で「汚泥肥料」と定められているので「汚泥」を使うことにした。いまや、国を挙げてバイオマス資源の利活用を進めている中にあって、先ずは農林水産省と国土交通省が一致団結して肥料名称の変更を検討すべきである。
一方、国土交通省では、再生水・汚泥・熱・二酸化炭素などの下水道資源を農作物の栽培等に有効利用し、農業等の生産性向上に貢献する取り組みを「BISTRO(ビストロ)下水道」(http://www.mlit.go.jp/common/001135944.pdf)、その取り組みから生産された農作物に「じゅんかん育ち」の愛称をつけて、汚泥肥料など下水道資源の利用拡大を推進している。
この「じゅんかん育ち」は2017年4月に開催されたBISTRO下水道ブランドネームコンテストで、全国から寄せられた833点の中から選ばれた。「じゅんかん」は記すまでもなく「循環」を表していて、実によいネーミングだ。これを下水道資源だけに限定するのではなく、家畜排せつ物や食品廃棄物(生ごみ)など国産バイオマス資源を原料とする堆肥や肥料などにまで拡げ、「勇気農業」の旗頭にするべきである。「有機JAS」のような手間や経費のかかる認証ではないこともすばらしい。
【汚泥肥料を入手するには】
肥料の入手先といえば、農協か肥料商が一般的であるが、汚泥肥料に関してはそのような通常ルートでの販売はわずかで、自治体あるいは下水処理事業の委託を受けた民間業者が全国約900ヶ所の下水処理場で肥料製造と販売を担っている。
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後藤逸男 ゴトウイツオ
東京農業大学 名誉教授
全国土の会 会長
1950年生まれ。東京農業大学大学院修士課程を修了後、同大学の助手を経て95年より教授に就任し、2015年3月まで教鞭を執る。土壌学および肥料学を専門分野とし、農業生産現場に密着した実践的土壌学を目指す。89年に農家のための土と肥料の研究会「全国土の会」を立ち上げ、野菜・花き生産地の土壌診断と施肥改善対策の普及に尽力し続けている。現在は東京農業大学名誉教授、 全国土の会会長。
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