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【農業は先進国型産業になった!】
日本ワイン比較優位産業論 現地ルポ 第17回 金銀賞連続7回のワイナリー家族経営で手作りの味醸す 源作印(有)秩父ワイン(埼玉県小鹿野町)
- 評論家 叶芳和
- 第37回 2020年05月25日
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栽培方法も、ベーリーAは棚栽培であったが、周りに住宅ができ防除の消毒液散布に文句を言われるので、垣根栽培(マンズレインカット方式)に変えた。秩父は土地が少ないので、密植である。沢山穫ろうということであろうが、機械は使えないので、労働生産性は低いであろう。雨除けビニールが設置されているので、梅雨時の降雨は避けられる。
興味を引いたのは、土壌改良だ。アルカリ性土壌にするため、圃場の下に石灰岩の石を敷いている(20~30cm下、大人の拳くらいの大きさの石)。これで水はけも良くなる。土壌改良、水はけ対策、一石二鳥だ。いかにも秩父らしいアイデアだ。武甲山の採石場から運んできた。
自社畑の品種は、白はシャルドネ(300本)、赤が多く(6000本)、メルロー(これが主体)、カベルネ・ソーヴィニヨン、カベルネ・フランのほか、山ブドウ1300本(赤)が植えられている。導入品種は気候が合わないと枯れるが、何年たっても枯れないので、欧州系はここの気候に合っているようだ。
■甲州シュールリーで「金賞」
金賞ワイン「源作印 甲州シュール・リー」は自社畑のブドウではない。「甲州」品種であり、購入ブドウだ。山梨県のJAから購入している。特別に栽培した契約栽培ではないようだ(糖度も16度普通)。普通のブドウから、なぜ金賞ワインか。
醸造工程に秘密がある。ブドウ果汁の搾汁には、ブドウ破砕の後、圧力をかけずに自然に流れ出て抽出された果汁(フリーラン果汁、搾汁率56~60%)と、圧搾によるもの(プレス果汁)に分かれる。このフリーラン果汁(要するに一番搾り)が金賞ワインの出発点だ。
このフリーラン果汁を発酵させ、発酵タンク段階のテイスティングで味の良いものを選ぶ。同じものでもタンクによって微妙に味が違う。ここで特に味や香りの良いタンクを選別し、シュールリー法(発酵時に発生する澱(おり)を取り除かずに保存、澱由来の複雑味や旨味が引き出される)で醸造する。つまり、一番搾り、発酵の特別上質もの、そしてシュールリーである。これが金賞の「甲州シュール・リー」ブランドである。生産量は約3000本。価格は720ミリリットル2750円。
一方、同じくフリーラン果汁かつシュールリー法であるが、発酵タンク段階で特級の選別に漏れたものは「源作ワインGKT」ブランドになる。価格は1793円。
なお、プレス果汁も入っているものは「源作印」ブランドになり、価格は1243円と、味はいいが買いやすい価格になっている。これが同社の主力商品である。
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叶芳和 カノウヨシカズ
評論家
1943年、鹿児島県奄美大島生まれ。一橋大学大学院経済学研究科 博士課程修了。元・財団法人国民経済研究協会理事長。拓殖大学 国際開発学部教授、帝京平成大学現代ライフ学部教授を経て2012年から現職。主な著書は『農業・先進国型産業論』(日本経済新聞社1982年)、『赤い資本主義・中国』(東洋経済新報社1993年)、『走るアジア送れる日本』(日本評論社2003年)など。
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