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ワインはどうか。国産ブドウ100%で造る「日本ワイン」は、近年、長野県が急成長している。日本ワインの生産規模で全国2位のアルプスワイン(塩尻市)の矢ヶ崎専務に緊急取材した(同社は輸入原料を含めたワイン生産で長野県の半分を占める)。
4月の売上は、スーパーマーケットでは100を超えている。通販は2倍も伸びた。しかし、居酒屋向けは激減。長野県は人口200万人に対し、観光客数は年1,800万人(宿泊者数)と多いが、この観光客が90%減であり、その影響が大きい。一方、ワインは清酒やビールに比べ、家庭で飲まれる割合が多いので、前年並みを維持しているわけだ。
私の仮説は崩れた。清酒ではなく、ワインが「国民酒」の地位を奪ったかに見える。しかし、上述の数字は人々の喜怒哀楽と共に選好されたものというより、家飲みの割合が多いか少ないかの影響が大きい。「国民酒」の定義から離れている。
酒類消費に占めるワインの比重はまだ4%に過ぎない(数量ベース)。まだ清酒には敵わない。コロナ禍の下でも「国民酒」は清酒であった。何せ清酒は「日本酒」であるから、名前で勝っている。また、「御神酒」でもある(注:量的にはビールがトップだが、万国共通であり、除く)。
ただし、清酒業界にとって、コロナ禍が与えた教訓は大きい。「家庭に入っていないと弱い」ということだ。食卓を囲む家庭団欒の中で飲まれてこそ「国民酒」である。ワインに学ぶべきだ。今後、清酒メーカーのマーケティングの在り方、そして容器、デザインが変わっていくのではないか。
一方、ワインは酒類消費に占める割合は4%、国産ブドウ100%の「日本ワイン」は0.2%に過ぎない。高いからか? やはり、経済原則が効いている。歓びで華やぐ時だけでなく、人々の喜怒哀楽と共にあるためには(つまり日本ワインが国民酒になるためには)、価格がもっと安くなるか、あるいは高価格に対応した美味しさになり、美味しさと価格の乖離が小さくなることが必要であろう。
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叶芳和 カノウヨシカズ
評論家
1943年、鹿児島県奄美大島生まれ。一橋大学大学院経済学研究科 博士課程修了。元・財団法人国民経済研究協会理事長。拓殖大学 国際開発学部教授、帝京平成大学現代ライフ学部教授を経て2012年から現職。主な著書は『農業・先進国型産業論』(日本経済新聞社1982年)、『赤い資本主義・中国』(東洋経済新報社1993年)、『走るアジア送れる日本』(日本評論社2003年)など。
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