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新・農業経営者ルポ

農学と情報科学の融合で世界にない価値をつくる

静岡県で他に類を見ない高糖度トマトが生まれようとしている。人工知能(AI)を活用して安定的に生産する技術を構築しただけではない。純粋に糖度のみを計測する世界初のセンサーも今年度中に実用化する。農産物の新たな標準を作る挑戦を続けるのは、創業してともに5年ほどの二人。流通業者Happy Quarity(浜松市)の宮地誠社長と農業法人サンファーム中山(袋井市)の玉井大悟である。 文/窪田新之助、写真/Happy Quarity

高糖度トマトの生産を安定させるAIとは

宮地と玉井に会うのはほぼ1年ぶりになる。前回は人工知能を活用して高糖度トマトを安定的に生産する仕組みについて話を聞いた。
普通のトマトは糖度5ぐらいなのに対し、高糖度トマトは8以上とされている。一方、サンファーム中山は後ほど紹介するように、AIを活用して平均糖度9.46のトマトを生産する技術を作り上げた。収穫物はすべてHappy Quarity(以下、ハッピークオリティ)が集荷して自社で開発した選果機にかけ、「Hapitoma」というブランドで糖度ごとに価格を設定して販売している。
トマトは、土壌の水分を切らして栽培すると、糖度が高まることが知られている。果実に含まれる水分が多いと、甘さが薄まってしまう。逆に、水の供給を減らして果実に含まれる水分を少なくすることで、甘さが増すというわけだ。
水を切るには、土壌中で根が伸びるのを抑えたり、養液の量を点滴で調整したりする。サンファーム中山の場合、土の代わりにロックウールを培地に用い、根域を制限しながら、中玉トマトを養液栽培している。養液の量を点滴で調整するのに使っているのは日射比例式の制御装置。ハウスに設置したセンサーで日射量を集積している。事前に設定した積算量に達すると、自動的に給水する仕組みだ。

植物と対話できていなかった

ただ、これで実際に作物が必要としているときに必要な量の水を与えられているかといえば、玉井は「そんなことはない」と言い切る。
「かん水するタイミングで考慮しているのは日射量だけ。ただし、温度や湿度なども蒸散に影響しているので、それらを考慮しないと植物にとって最適な環境は作り出せないはず。だから、従来のやり方では植物と対話できていないと思ってきました」
そこで頼ったのが静岡大学情報学部の峰野博史教授。峰野教授がAIを使って高糖度トマトを安定的に生産する技術を作り始めているという記事が業界紙に出ていたのを宮地と玉井はたまたま読んだのだ。
峰野教授がその技術を開発するうえで注目したのは葉。高糖度トマトを作る熟練の農家に聞き取りをしていくと、かん水のタイミングを見極めるのに葉の下向き加減、つまり葉のしおれ具合で決定していることがわかった。

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