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新・農業経営者ルポ

農学と情報科学の融合で世界にない価値をつくる


宮地と玉井は現地試験の場を提供し、研究に参加する。ハウスに定点カメラと環境センサーを設置。AIを活用して時系列で得られるデータを融合し、葉のしおれ具合に関する特徴を効率的に取り出そうとした。しおれについては葉だけではなく、吸水できないと細くなっていく茎の太さの変化も推定できるようにした。これと葉のしおれ具合との相関関係を見ながら、植物のしおれ具合と将来的にそれがどう変化するかを高精度に予測できることに成功。さらに、その予測を踏まえ、かん水を制御する技術を作り上げたのだ。

「Brix=糖度」の誤解

高糖度トマトを安定的に生産することに成功するのとほぼ軌を一にして取りかかったのが糖度の新たな基準を作ること。これに関して宮地は「世の中の糖度は本当の糖度じゃないんですよ」と打ち明ける。糖度の指標としてBrixがある。宮地によると、Brixは可溶性固形分の濃度を示す尺度に過ぎない。つまり、食品には糖以外に酸などが含まれており、既存のBrixの検査機はそれらにも反応するため、純粋に糖度だけを表示できないのだ。
そこで経産省が所管する産業技術総合研究所(以下、産総研)との共同研究で糖と酸の個別の値を計測するセンサーの開発を始めている。その装置の発光部分を生育中の果実に当て、糖度と酸度を検査する。宮地は「来年3月末までに実用化したい」と話す。
Brixではなく、糖度や酸度などが純粋に計測できるようになれば、それ自体が「新基準」になり、新たな価値となる。しかも、AIやIRセンサーでそれを安定的に生産し、なおかつ全量検査ですべての商品を担保する。じつは現状、スーパーで「糖度8」とうたっている商品の中には、サンプル検査で済ませているものもあるのだ。
ざっと以上が1年前に聞いた話だ。勢いに乗る二人のその後が気になったので、宮地に今回の取材をメッセンジャーで打診すると、こんな言葉が返ってきた。
「当時話したことはむちゃくちゃ過去になっていますよ」
それほど進展しているのかと驚くとともに、ちょっと大げさではないかという気もした。ただ、実際に話を聞いてみると、決してそんなことはなかった。

情報科学の専門家がメンバーに

5月下旬、袋井市にあるサンファーム中山の仮設事務所を再び訪れた。宮地は再会の挨拶もそこそこに、パワーポイントを使って「その後」を話し始めた。数々の投資会社らを相手にプレゼンしているだけあり、よどみなく言葉が出てくる。

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